第12章 欠けていくもの【土方歳三編】
「まさかこんなに早く、おまえと相まみえることができるとは思わなかったぞ。土方とやら」
「顔に向こう傷付けてもらったのが、よっぽどうれしかったのか?そこまで喜んでもらえりゃ光栄だぜ」
「ほざけ……!」
風間は苛立たしそうに奥歯を噛み締めると、腰に差していた大太刀を引き抜く。
そして直ぐにその大太刀が、以前風間が使っていた刀とは違うことに気が付いた。
(何、あれ……凄く嫌な感じがする)
刀身は日の光に当てられているわけではいのに、不気味な光を放っている。
その刀に私は嫌な感じがして、眉間に皺を寄せた。
「おまえを殺せば、あの時の屈辱を晴らすことができる。天霧、おまえは手を出すな。この男は、俺の獲物だ」
「……お好きになさるがいい」
天霧は呆れたように言い放つと部屋の隅へと向かう。
そして、土方さんは素早く刀を抜くと羅刹化しながら風間を睨みつけた。
「やれやれ……。腕の一本でも斬り落とされなきゃ、わかんねえみてえだな。……うぉおおおっーー!」
土方さんは風間へと猛然と斬りかかる。
「ふっ……!」
だが風間は悠然とした調子で土方さんの斬撃を受け止める。
目の前で刃と刃が動き、そして双方の刀はかみあい、鍔迫り合いとなった。
だが、土方さんは風間に押し負ける形で後方へと飛び退く。
そんな彼を風間は鬼本来の姿になると、逃すことなく攻めていった。
「……逃がすか」
土方さんが着地した一瞬を見逃さなかった風間は、彼へと刀を振り下ろした。
「くっ……!」
彼は刃で風間の刀を受け止めた。
「この間に比べ、動きに精彩がないな。人間相手の戦で疲れたか?まがい物とはいえ、鬼のおまえが」
「ぐ、くっ……!」
風間の刀を抑えていた剣の切っ先が小刻みに震え出したのに気が付いた。
土方さんは確かに、羅刹化しているはずなのにこの間に比べて鈍っている。
(日が出てるせいだ……!)
羅刹にとって日が出てる時刻は動くには辛い時間帯。
それに気が付いた風間はにやりと笑った。
「……ああ、なるほど。まだ日没までは間があるからな。まがい物が動き回るには、辛い時間か。だが、おまえに合わせて手を抜くような真似はせんぞ。どんな相手にでも全力を尽くす……。それが、武士の作法とやらなのだろう?」
「く……、くそったれ……!」