第5章 *File.5*諸伏 景光*(R18)
「ええ。同じ高校と大学に通っていたんですよ」
「まさかこんな場所で会うなんて、超ビックリだよね?アムロクン」
「本当に。偶然って凄いですよね」
きっと。
神からのお告げ。
お互い素直になれと。
再会するのは、今なんだと。
これ以上、雪乃を待たせるなと。
今この場で俺と再会したのは、偶然ではなく必然。
そして、二人の間に俺を介したのは、きっと…。
「そうそう。冷めないうちに飲んで下さいね」
「…ありがと」
ティーカップを手にした雪乃に、小さく頷いてみせた。
「あれ?」
「もういいのか?」
雪乃が不意に顔を上げて、キョロキョロと店内を見渡した。
どうやら、ようやく話の内容のキリのいいトコロまで読み終えたらしい。
「ごめん。もう閉店時間過ぎてたのね。また本の世界に入り込んでたみたい」
そう言いながら、手にしていた文庫本に栞を挟みテーブルに置くと、腕を伸ばして身体を解す。
「閉店の後片付けをしていたから、構わないよ。何か食べて行くか?」
「…何時からそんな優しいイケメンになったの?」
「安室透は、そういうオトコだ」
「ふーん。じゃあ、降谷零クンは?」
「キミが知っている、そのまんまのオトコだよ」
「…職業も?」
「ああ」
「……そっか」
少しホッとしたように、口元に笑みをのせた。
本当に聞きたいのは、俺のことじゃない。
でも、口には一切出さない。
雪乃、キミらしいよ。
「で、どうする?」
「ありがと、また今度にする。今晩は昨日作ったカレーで、カレーうどん作る予定だから。あ!でも帰る前にお手洗い借りるね」
「くくくっ。どうぞ、ごゆっくり。もう日が暮れて危ないから、後で家まで送るよ」
「…ありがと」
カレーの話は、ホントかウソか?
きっとウソ。
これ以上、俺と居たくないから、だろう?
俺を一目見た瞬間から、嫌でも思い出しているだろうから。
「だって」
「相変わらず、ウソが下手だな」
音も気配も無しに姿を現した雪乃の元カレは、閉まったお手洗いのドアを見つめたまま、目を細めて楽しげに笑った。
まるで、制服を着ていたあの頃の彼女を思い出しているかのように。
「じゃあ、これ」
「ああ、有難う。ゼロ」
ポアロの鍵を手渡すと、後片付けを済ませたポアロを後にした。