第56章 返事 ✴︎
「以前も言いましたが、僕自身も驚いているんです。
なぜあなたのようなどこにでもいる一般人に心を奪われたのか…殺したいほど憎んでいる男の恋人であるあなたを好きになってしまったのか…
いくら考えても分からないままですよ…」
その時の安室さんは決して嘘を言っているようには見えず、本音だというのが伝わってきた。
でも何て言えばいいのか分からなくて黙ったままでいると、安室さんはまた私の方へ一歩足を進めた。
「恋に落ちるのは理屈じゃない…
あなたと出会って、僕は初めてその事に気付きました。
だから…フラれたからと言って
そう簡単に美緒さんを諦める気にはなれません。」
『え……でも…
それは安室さんが…辛い思いをするんじゃ…』
「…あなたは本当に優しい女性ですね。
僕は美緒さんのそんなところが好きなんです。」
いやいやいや、普通の事だと思うんですけど。
報われない恋をしたって幸せになれないのは
頭のいい安室さんなら分かってるはずなのに…
何でそんなに私のこと…
「美緒さん…僕の気持ちは僕だけのものです。」
『っ、それは…そうですけど…』
「時が経って、もしかしたらあなた以上に
好きになる女性が現れるかもしれません。
ですが今は…」
安室さんはそう言いながら
一歩…また一歩と私との距離を縮めてきて…
気がつくと私の目の前に立っていた。
「あなたの事がどうしようもなく好きです。
隙を見せたら…あの男から即、美緒さんを奪います。」
…そんなに堂々と宣言されるのは流石に恥ずかしい。
でも安室さんが言ったように
好きな人を思う気持ちは、そう簡単には捨てられない。
私が諦めて欲しい、と言ったところで
安室さんの気持ちが変わる訳ではないんだ…
『私のことを想ってくれているのは…本当に嬉しいです。
ただ…はっきり言っておきますけど
安室さんの気持ちに応える日が来る事はありません。』
こんな言い方をしてひどいと思われるかもしれないけど、安室さんが私のことを真剣に想ってくれているように
私は赤井さんの事が大切で、
赤井さんだけが私の唯一無二の愛しい人なんだ。