第73章 隻眼
「自分は……諸伏さんに頼まれたんです…。」
「ヒロに…?」
「長野県警には諸伏さんのお兄さんがいます…。
若山さんとも顔見知りなので
兄を守ってあげて欲しい、と…。
…降谷さん、諸伏さんはあなたの奥様の腕を見込んで
家族の警護を依頼したのです。」
…なるほど、そういうことか。
雪崩事故にあったのは、
長野の廃教会の事件で一度だけ会った、大和敢助警部…。
ヒロのお兄さんも、同じ捜査一課の警部で
2人は幼馴染。
危険な目に遭うんじゃないかと心配になり
美緒にボディガードを頼んだってところだろう。
…だが、それならそうと
ヒロも美緒も、僕に相談くらいしてくれれば良かったのに。
「全く…、ヒロも心配症だな…。
…風見、話してくれてありがとう。」
「いえ…、では失礼します…」
風見と電話を切ってすぐ、無意識にため息が溢れたが…
ヒロが美緒に頼むってことは
余程お兄さんのことが心配なんだろう。
2人は両親を幼い頃に亡くし
離れていても、ずっと支え合って生きてきた…
2人がどれほどお互いを大切にしているか…
美緒もそれを分かっているから
危険だと分かっていても、任務を引き受けたんだろう。
恐らく、護衛するにあたって
風見から今回の事件の概要も聞かされて知っているはずだ。
美緒は頭も冴えるし、
きっとみんなの力になってくれる…
事件の早期解決にも役立つだろう。
彼女が怪我をしないか心配な気持ちはあるが
ヒロの頼みなら仕方ない…
僕は美緒にメールを送ることにした。
黙って長野へ行ったことや
協力者としての仕事を勝手に引き受けたこと…
色々と文句を言ってやりたいが
きっと僕の妻である美緒なら…
たった一行の文章でも
僕が言いたいことなど、理解するのは容易いはずだ。
[長野で浮気するなよ。]