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二人の航海者

第7章 青空と曇り空


——が。食べたら中身が思っていたのと違った。外側はビターチョコレートだが、内側にはとろりとしたカラメルソースが入っていたのだ。中に液体の入った物であれば、ウィスキー・ボンボンが有名だが。

「フゥン?見た目は普通のチョコレートでありながら、中身は本気、か……。
………………ん?《本気》だと?」

チョコを飲み込んで感想を言った後。自身で放った言葉で、龍水は気付いてしまった。食べれば分かる、蒼音の本質を煮詰めたチョコ。いつも龍水の愛に振り向かず、素っ気ないほろ苦い蒼音。対して、独り占めライブチケットを買った時の抱擁の様な本当は心根の優しく、自分を甘やかす蒼音。

プラスアルファ、《自分を食べろ》と言わんばかりの蒼音の身体のヒビの模様。見た目も中身も。全てが蒼音を体現した、本気としか思えない愛の詰まったチョコレート。

俺は……蒼音を、食べたのか……??あの蒼音を……俺が…………
くらり、と目眩がする中。錯乱した龍水が叫んだ。

「くっ……フランソワ!俺の遺言だ、頼む!!
《蒼音、貴様を食べた!!許せ……っ、いや許さなくていい……!!無粋な事をした!!せめて貴様のチョコの、写真を……七海博物館に…展示、したかった……》」

バターーーンッ!!!!

「龍水様!お気を確かに!!」
天下の七海財閥の御曹司らしからぬ、超絶下らない遺言を残し。蒼音のチョコひとつで龍水は倒れた。

その後龍水は三日三晩、寝込み続け。その間にも科学王国民から龍水を労る様にバレンタインチョコが沢山届くも。蒼音からのチョコは、その一粒だけだった。見舞いもフランソワに『身体は大事にしろ。休め』の言伝だけだ。殺られたのは心の方だが。

「くそっ!普通のチョコレートならまだしも、あの手の物は作るのも一苦労の筈だ!フランソワ。あれ程のチョコだ、貴様も蒼音のチョコ作りを手伝ったのだろう!?」
やっと復活した龍水が悔しげに枕をべしべし叩く。中の毛が飛び散ってるがフランソワは気にしない。

「いえ。私は蒼音様に厨房をお貸ししただけです。チョコレート作り自体には関与しておりません」
「な、なんだと!?」
クワッ!!と龍水が目をかっぴらく。三白眼の白目部分が更に大きくなる。
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