第5章 貴方の隣で
両手で私の顔を包み、指で涙を拭って目元にキスをする。
全部が優しくて、蘭さんを見つめる。
「話せるか?」
私は頷く。
「で? 何が嫌?」
そんなの、自分にだってよく分からない。ただ、彼から他の人の香りがするのが嫌だった事くらいしか、はっきりしない。
そして、私はハッとした。
これって、まるで。
蘭さんが後ろに倒れた拍子に、私も同じように蘭さんの胸の上に倒れ、私が押し倒すような体勢になる。
「へぇ……それ、嫉妬?」
たどたどしく説明した私に、蘭さんは意地の悪い顔でニヤリと笑って、私の頬を撫でた。
「ほーんと可愛いね、お前……」
「またバカにして……」
「してねーよ。マジで思ってるよ……は可愛い……」
蘭さんの甘い声に吸い寄せられるみたいに、顔が近づいた。
触れるだけのキスを、何度も繰り返す。
「が俺をそんなに好きだとは知らなかったなー……どっちかっつーと、お前は竜胆を好きなんだと思ってたし」
竜胆君とはどちらかといえば、仲はいい方だからそう思われるのはよくある事だったから、正直驚きはしない。
でも、そういう態度を取った事はなかったから、そう思われていた事には驚いた。
蘭さんとは、どうしても最初のあんな始まり方があったわけだし、お世辞にも好きとは言えなかったのは確かで。
なのに、いつの間にこんな感情が生まれたのか。
何かがあるわけじゃなくても、これといった深い理由がなくても、この人の傍にいたいと思えて、いつの間にか好きになってるのも、一つの恋の方法でもあるのだと、蘭さんに教えてもらったのだろうか。
「蘭さんは、私をどう思ってますか?」
「お前今更な事聞くんだな。まさか気づいてないわけ?」
何にと聞こうとした私の言葉は、唇に滑る優しい指の感触に奪われた。
「俺は興味ねぇような女に手ぇ出したり、好きでもねぇのに隣に置いたり、ましてや一緒に住むとか、んな面倒な事しねぇし。誰が好きでもねぇ女に貢ぐんだよ。さすがにそこまで優しい男じゃねぇーよ? つーかさぁー、いくら何でもお前鈍感過ぎねぇ? 分かんだろー、普通」
言われてみれば、蘭さんは自分の家を一緒にいた先輩達にすら教えていなかったり、私に大量の服や靴を買ってくれたのを思い返す。