第4章 天に在っては願わくば ☆*:.。. 明智光秀.。.:*☆
上目遣いで見上げてくる、とろんっと蕩けた瞳。
微かに開いた艶やかな唇からは、息苦しいのか、時折、ほぅ…と悩ましい吐息が溢れる。
腕に抱き締めた華奢な身体は、飲み過ぎた酒のせいでいつもよりも熱くなっていた。
(全く…こんな無防備な姿を晒すとは…)
信長の隣で楽しげに盃を受ける怜を内心案じながらも、上機嫌な主君の手前もあり、大人げなく阻むことは躊躇われた。
程よく酔いが回って頬をほんのり桜色に染めた怜は匂い立つような色気が溢れていて、盃を口に運ぶ何気ない仕草にさえ、広間にいる男達の視線を集めていた。
自らの生まれ日を祝う宴ではあったが、光秀は途中から怜の様子が気掛かりで仕方がなかった。
「怜、溢れたぞ」
盃を口に運ぶ怜の手元が揺らぎ、口の端に溢れたひと雫の酒を信長の長く骨ばった指先が何の躊躇いもなく拭うのを見た瞬間、居ても立っても居られなくなった光秀は、怜の手を引いて足早に宴の場を後にした。
秀吉が咎めるように声を上げる中、信長の悪戯っぽい笑みが視界の端にチラリと見えた。
(まんまと御館様の手の内で踊らされたような気もするが…怜のこんな顔を他の男に見せるわけにはいかない)
計らずも早々に愛しい恋仲と二人きりになれた。
祝いの席を設けてくれた皆には感謝しているが、怜と過ごす時間こそが光秀にとっては一番の祝いであった。
「御館様には逆に礼を申さねばなるまいか…」
「えっ…信長様?やっ…飲み過ぎたのは信長様のせいじゃないですよ?無理矢理飲まされたわけじゃないですし…その、私も楽しかったですし…」
信長からの酒を断り辛かったとはいえ、楽しい気分で酌み交わしたのもまた事実だった。
皆が光秀の生まれた日を祝ってくれ、共に過ごすこの時間を心から楽しんでくれているのが分かって本当に嬉しかったのだ。
(光秀さんは単独での任務が多いし、色々と誤解されやすい人だからこういう機会に皆に光秀さんのことを知って欲しかった)
「分かってるさ。そんなに興奮すると、ますます酔いが回るぞ?」
「んっ、もぅ!揶揄わないで下さい、光秀さ…んっ!」