第7章 第六話 千年の剣士
最初は夢でも見たのではないかと信じていなかったが。
しかしその後も夜になると自分の元へやってきて報告するのだと言っていた。
「報告?」
「『世界一強い男は未だ現れません』と。いいかげんにしろと怒鳴ったが、娘は本当の事だと言い張った。そして三日前、よりによってパレッティ子爵と婚約が決まった日に…」
何を考えているんだ、と項垂れる様子を見て、彩音は眉を顰める。
ガチャリと音がし、そちらに視線を向ければ、同じような事を言いながらパレッティが部屋へと入ってきた。
チラ、と彩音と不二を一瞥し、パレッティがフンと鼻を鳴らした。
「私と結婚すれば、一介の商人から成り上がったサルディーニ家も貴族と縁続きになり、ようやく念願叶って上流階級の仲間入りができる」
これ以上の親孝行はないというのに。
その言葉に彩音がグッと手を握った。
―――――クラウディアさんを、何だと思ってるの…。
その後も家出が、財産がどうのと話し込む2人に、彩音と不二は呆れ返っていた。
「ところで先程からこちらを睨んでいるあのお2人は?」
ふと、パレッティがこちらを振り向き、彩音はふいと視線を外す。
黒の教団だと言うサルディーニの言葉に、ほう、とパレッティが2人を見つめる。
「あの有名な黒の教団に協力頂けるなら賞金稼ぎなどいなくとも…」
「お断りします」
パレッティの言葉を遮るようにして言ったのは不二だ。
「クラウディアさんに帰ってきてほしかったら、自分たちで探しに行けばいいでしょう?身分だの財産だの、あなたたちはそんなものと娘さん、どっちが大切なんですか?」
―――――そんな父親だから、婚約者だから、クラウディアさんは逃げ出したのでは?
怒りを抑え切れないまま言う不二に、彩音がそっと近付く。
不二と彩音はその場を後にした。
「クラウディアさん、かわいそうだね」
サルディーニ家から出てから、歩きながらぽつりと彩音が呟いた。
結局神田とユキサの手がかりは見つからなかったし、と少し落ち込んでいる彩音。
「クラウディアさんが家出だったのかも分からないけど、ビットリオと関わりがあるのは確かだろうね。…とりあえず、また明日手がかりを探すしかないね」