第7章 寂しさ
数分前まで浮かれていた自分を殴りたくなった。早く悟に会いたいと、早く家に帰りたいと…そう思っていた自分を情けなく思った。
会いたいと思っていたのは自分だけだったのかと…1人のベッドが寂しいと思っていたのは私だけだったのかと。近くに立つ悟から香ってくるタバコと香水の匂いに小さく眉を歪ませると。悟は何かに気がついたのか…
「あ、もしかして僕臭い?」と言いながらクンクンと真っ黒な服を持ち上げて袖口の匂いを嗅いでいる。
何だか馬鹿みたいだ。浮かれて恥ずかしい。だけど別に悟は悪くない。だって突然帰ってきたのは私で、当然いきなり帰って来た私を嬉しそうに迎えてくれるって私がそんな事を勝手に思っていたのだから。
だけど1週間留守の間に誰が婚約者に好きな人が出来ると思うだろうか。
いや、もしかしたらずっと前からそんな存在がいたのかもしれない。だけど御三家である五条家の悟とは格差が大きく難しい恋なのかもしれない。
だから結婚は出来なくて、馴染みのある私を結婚相手として選んだのかもしれない。
確か昔悟が言っていた。自分の親は堂々と不倫をしているという話を。元々恋愛結婚ではなく政略結婚だった悟のご両親は、一見仲の良い夫婦だが本家に帰れば会話一つする事のない冷めた夫婦だと言っていた。
第一子で無下限術式と六眼を持つ悟が産まれたため、妾を取ることは無かったが、そんなの意味を成さないほど家の中は酷くぐちゃぐちゃで汚い世界だと話していたのを思い出す。