第9章 久々に血が騒ぐわ…!
「美味いな。」
「でしょ?これさ、冬のメニューで定番にしたらいいと思わない?」
「そうだな。焼きにぎりもいいが、こっちの方が手が伸びるかもしれないな。」
「だよね。ん、やばっ、たれちゃった。」
言いながら、エニシは慌てて指で口元を拭う。
イタチは別の屋台で貰った塵紙を差し出した。
「気をつけないと、折角の一張羅がシミになるぞ。」
イタチがそう言うと、エニシの顔がムッとしたようなしょぼんと沈んだような顔になる。
「…似合わないけどね。」
イタチはその台詞を聞いて、きょとんとしたあと「あぁ」と思い至った。
「似合わないなんて言ってないだろ?」
似合わないとは本当に思ってはいなかった。
ただ、一目で分かる洒落た装いを見ると、どうしても胸を騒つかせてしまうのだ。
いつかの日も、記憶を失ったエニシは忍服とはかけ離れた洒落た装いだった。
そのエニシから、まるで他人のように会釈をされた時の衝撃は、これだけの年月が経っても忘れることは出来ないのだと今日知った。
故に、イタチは誤解を招くような言葉しかかけることが出来なかったのだ。
だが、それを上手く言葉には出来そうになかった。
照れくさいのもあるが、言葉に出来ない蟠りのようなもやもやした感覚もあるからだ。
むくれたエニシに、イタチは苦笑しながら頭を撫でる。
「許せ。…ただ、似合わないとは本当に思ってないぞ?」
その言葉に、むくれた顔が少し緩んだ。
「本当に?」
「あぁ。」
答えると、彼女の顔にぱぁっと笑顔が咲く。
「良かった。」
にぱっと笑ったエニシを見て、イタチは内心胸を撫で下ろし、ふっと笑う。
機嫌が直って一安心だ。
彼女はくるりと体の向きを変えると、「あ」と声を上げた。
「あそこ、あの屋台も美味しいのあるよ!」
「早いな、もう見つけたのか。」
「これだけあると目移りしちゃうよね。でもまぁ、食べ切る頃にはきっと出来上がるから先に頼んじゃおうよ。」
「しょうがないな。」
「へへっ。これぞ屋台の醍醐味ってね!」
「食べ歩きなんて普段やらないしな。」
「分かってるぅ。んじゃ、行こ行こっ!」
イタチはエニシに促されるまま、次々と屋台を梯子していった。