第9章 久々に血が騒ぐわ…!
「ね、ね、次あれ食べてみない?私のオススメなんだよ。」
そう言ってエニシが指を指した先は果物のシロップ漬けを売っている出店だった。
「この時期に果物とは珍しいな。」
「そうなの。なんてったってうちには白がいるからね。」
そう言ってにぱっと笑顔を返した彼女を見て、イタチの顔にも釣られたように笑みが浮かぶ。
「氷…冷蔵技術か何かか?」
「冷蔵よりも更に温度の低い冷凍技術なの。何せ瞬間冷凍が出来るから鮮度が違うのよ。それも状態保存力って言ったらいいのかな。繊維が崩れない綺麗な冷凍の仕方なんだよね。これが札に出来ればもっと画期的になるよ。」
きらきらとした目で語るエニシを見ていると、つくづく思ってしまう。
自分と関わることなく、こんな風な穏やかな場所で恙無く日々を送ってくれたら、と。
『ここに住むことで穏やかに過ごせるからって、それで満たされるとは思わない。』
愁いを帯びた目を少し伏せながら淡々と紡がれる言葉には、エニシの普段は見せることのない苦しみが見えた気がした。
『だから、イタチも諦めて。ここに…イタチの傍にいることは、私にとって満たされる毎日だから。』
傍にいることで満たされているのはイタチも同じだった。
利害の一致…そんな言葉が不意に過り、彼はぐっと自我を押さえ込んだ。
それでも共にいられる理由が出来たことは嬉しいと思ってしまった。
いつか来る日まで、少しでも共にいられるのなら…、と。
「はい、どうぞ。」
ふと、差し出された器が目に入り、思考が霧散する。
イタチはエニシから器とスプーンを受け取ると、中身をまじまじと見る。
そこには、シロップの中に丸くくり抜いた赤や黄色、橙に白色の果物がぷかぷかと浮かんでいた。
時々、ふつりふつりと細かな泡が立ち昇って来るのが気になるところ。
「美味しいよ。食べてみて。」
楽しそうに勧めるエニシに促されるまま、イタチはスプーンで果物を一つ掬って口に運んだ。
その瞬間、しゅわっとした舌触りとスイカの優しい甘さが広がり、イタチは驚いて器の中を見てからエニシを見た。