第37章 ゼロの
となると考えられるのは。第三者が毛利さんを犯人に仕立てようとしている可能性。そして、現段階でその可能性が一番高いのがーー……公安。
恐らくだが、サミット会場の下見中に何かしらテロの可能性を察知した。だが、現場の状況的にこのままでは事故で処理されてしまう。だから容疑者をでっち上げた、といった所か。
公安の人間ならば、パソコンに細工をしたり現場に証拠を残すことだって容易なはず。
しかし、仮にこの推理通りだったとしてもそれを証明する証拠がない。公安の人間も、そんな形跡を残すようなヘマはしないだろう。
警察は、証拠のない話には取り合わない。
警察官である私には、どうしたって出来ることに限界がある。
どうしたものか…。
多分、この事に彼は気付いているはず。きっと、手段を選ばず捜査をしている真っ最中だろう。
ーー…ここは、彼に託してみるのも手かもしれない。
きっと彼ならば、毛利さんの無実はもちろんテロの真犯人も突き止めてくれるかもしれない。
情けない話ではあるが、期待しよう。
そうして私はプラスチックカップを勢いよくゴミ箱に捨てて、給湯室を後にした。
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その後、毛利さんの起訴が決定してしまった。
だが、起訴を決定したのは公安警察。今回の事件を担当している“日下部検事”は、その一存で刑事部に追加捜査を要求したらしい。それを受けて、一課は毛利さんのパソコンが中継点にされた可能性を調べている段階だ。
そうして今日行われる捜査会議は、その捜査報告をする場である。
「我々公安部の捜査の結果、爆破現場への不正アクセスに『Nor』が使われていたことが分かりました」
『Nor』とは、IPアドレスを暗号化し複数のパソコンを経由することで辿れなくするブラウザソフトのことである。
「Norの匿名性は解除できないんですか?」
「原則的には無理だ。だが、Norのブラウザに構成ミスやバグがあれば、ユーザーを特定できる可能性があるらしい。
逆に言えば、犯人のNorブラウザにこっちから脆弱性を作れば追える可能性が出てくる」
なるほど、そうして新たなユーザーが出てくれば毛利さんのパソコンはただ中継点にされただけという動かぬ証拠になるわけだな。
「現在、我々公安部でサーバーを辿りユーザーが特定できる可能性を探っています」