第36章 女の秘密
「そうしてそのベルモットは、今から20年前に私の両親を殺害した犯人」
「……え、」
予想だにしない話の続きに驚いている私に構うことなく、ジョディは淡々と話を続けた。
___今から20年前、合衆国のとある屋敷でのこと。
そこに住む齢八つの少女は夜中、寝る前に絵本を読むという父との約束のために父を部屋へと呼びに行った。いつも大事に抱えているお気に入りのくまのぬいぐるみと共に。
しかしその部屋にいたのは黒い帽子と黒い衣服を身に纏った女と、そしてソファに横たわって微動だにしない父親の姿。
少女は女に問うた、「あなたはだれ?」と。女はゆっくりと少女へ近づき、人差し指を口元に添えてこう答えた。「秘密よ秘密、教えられないわ。――A secret makes a woman woman. 」
そうして女は手に持っていた父親の眼鏡を少女に渡し、「あなたのパパが起きるまでそばにいてあげてくれる?」と少女に言った。少女は屈託のない元気な返事をし、それに満足した女はそのまま屋敷を去っていった。女がその屋敷にいたという全ての痕跡と、FBI捜査官であった父親が秘密裏に集めた調査資料を一切闇に葬るために、屋敷に火を放って。
そうして屋敷と父親、そして母親は燃え盛る真っ赤な炎に巻かれて灰となってしまったのだった。
だが、不幸中の幸いとでも言おうか、少女だけは命を落とさずに済んだ。
女が去った後、父が起き抜けに飲むオレンジジュースが切れていたことを思い出した少女は、両親の役に立ちたいという無垢な想いのもと意気揚々と買い物に出掛けていたのだ。
事件の後、父親の仲間であるFBI捜査官達は少女を守るために少女に証人保護プログラムを適用した。そうして少女は名前も住所も変えて別人となり、両親の仇を討つため父親と同じくFBI捜査官となって今日までの20年間を生き続けたのだ。
「……A secret makes a woman woman.
忘れまいとして何度も口ずさんだ、父の敵の言葉」
ジョディは俯きながらそう零した。
「あの時の質問に、きちんと答えるわね。
私がビューローの捜査官になった理由は、同じくビューローの捜査官だった父の遺志を継ぐため。そして、あの女…ベルモットをこの手で捕まえるため」