第31章 緋色の
「だが、これだけは言っておく。
今話した全ては、君が命を投げ打っていい理由には到底ならない。
君は覚悟の上だとかほざいていたが、そんな命を軽んじるような発言は二度とするな」
「……すみませんでした」
今度は赤井さんが真っ直ぐに私を見つめてそう伝えた。
……軽んじているつもりはないんだけどな。
「もう遅い。自宅まで送って行こう」
「あ、ありがとうございます」
時計を見ると、針は11時より少し前を指していた。辺りはもうすっかり夜更けである。
マカデミー賞はとっくに終わっているな。
工藤先生にもう一度握手をしてもらい、ご自宅にお邪魔させて頂いたお礼と、何度かのご無礼をお詫びした。
それでも工藤先生は「また来てください」と笑顔で仰って下さり、やはり神は神なんだと思い知らされる。
コナンくんはどうやらお隣の阿笠さんのお宅にお泊まりするとのことなので、彼にも一応お礼を伝えて私は工藤邸を後にした。
「自宅は緑台だったよな?」
「はい、駅前まで送ってくだされば後は歩いて帰ります。駅から近いので」
キャップとサングラス姿の赤井さんは、沖矢さんの時と同様の車であるスバル360を発進させた。
ちなみに私の最寄りの緑台駅には東都環状線と東都線が通っており、沢袋や川品、芝浜などの都会までは1本で行ける割と便利な駅である。その上警視庁までは車で20分程度。
米花からは1駅、杯戸からは2駅違いにも関わらず治安はそこそこ良いので、最近は住みたい街ランキングTOP10にも食い込んでいるんだとか。
「赤井さん……あ、えっと、沖矢さん?」
「今は赤井で構わん。姿が沖矢昴の時は沖矢で頼みたいが」
「分かりました。
赤井さん、めっちゃ髪切りましたよね」
「……どうした突然」
「いや、ずっと言いたかったんですけど我慢してたんです。そんなの言える雰囲気じゃありませんでしたし。
私の中では、赤井さんとお会いするの1年ぶりなんですよ」
「まぁ、確かに切ったのは今年に入ってからだな」
「なんなら私よりも長かったのに、随分と思い切りましたよね。
あ!もしかして失恋でもしたんですか?」
私の言葉に、急に黙り込む赤井さん。
え、まさか図星……?