第11章 さよなら、ごめんなさい、そしてただいま※
杏寿郎さんから勇気をもらい、門はなんとか潜ったものの、今度は扉を開ける勇気が出ず、私は自分のつま先をじっと見つめ固まってしまった。
いつまでもここに突っ立ってても…何も変わらない…!
そう思い、扉に手をかけたその時
ガラッ
「…え?」
まだ何の力も入れていないはずの扉が、勝手に開き
「遅えんだよ。この鈍間」
目の前に、私をじっと睨むように見る、"元師範"である天元さんの姿が現れた。
「…っ…」
全然…気がつかなかった
驚き、戸惑い、喉に何かが詰まってしまったかのように言葉が出てこない。それでも、私には言わなくてはならない事が、言うべき事がある。
ふぅぅぅ
と心を落ち着かせるように大きく息を吐き、ぎゅっと手を握り締めた。
「…っ…あの…天元さん…」
「なんだよ」
冷たく言い放たれたその言葉に、ヒュッと背筋が冷たくなったが、全ては自分が取った愚かな行動の結果だと目を逸らす事なく天元さんをじっと見続けた。
「…勝手に…除隊届だけ置いて…いなくなって…すみませんでした…」
言葉と一緒に、涙が溢れ出そうになった。けれども
"泣けば許してもらえる"
そんな風に思っているとは思われたくなくて、必死にそれが溢れてしまいそうになるのを堪える。天元さんは私から視線を外し、私の後方にいる杏寿郎さんの方へと視線をやった。そして再び私に視線を戻し
「違うな」
と、一言だけ言った。
違うって…なにが?
意味を何とか汲み取ろうと、天元さんの顔をじっと見るが、やはりその一言だけではわからず
「…違うって…何がですか?」
そう尋ねてしまう。天元さんは
はぁぁぁぁ
と、大袈裟にため息を吐きながらボリボリと右手で頭をかいた。
「馬鹿だ馬鹿だとは思っていたが…ここまで派手に馬鹿だったとはな。流石にこの俺様も知らなかったぜ」
…そこまで馬鹿って言わなくても
心の中でそう言いながらも、悪いのは私だから仕方ないとぐっとその気持ちを心の奥に押し込んだ。