第11章 さよなら、ごめんなさい、そしてただいま※
…まったくもう…色々と気が早すぎでしょう
そんな事を考えていた私だったが
「最後に俺からも礼を言わせて下さい。俺の大切な人を助けてくれたこと、心より感謝します。ありがとうございました」
杏寿郎さんが真剣な面持ちでしずこさんと倫太郎さんに頭を下げた姿が目に入り、私の目はそんな杏寿郎さんの姿に奪われてしまう。
「礼なんていらないよ!そのかわり、この子をめいっぱい幸せにしてやってちょうだいよ」
「はい!必ずそうすると、お二人に約束します!」
「あと、時間がある時で構わない…また、2人で遊びに来なよ?」
「時間を作り必ず来ます!」
そんな2人のやり取りを見ていると
…しずこさん…どうして私の為にそんな風に言ってくれるんだろう…?
私の頭に、そんな疑問が浮かび上がってきた。
何故しずこさんが私の為にそこまで言ってくれるのか、私には全くもって理解不能だった。本来であれば、散々お世話になっておいて、おめおめと帰っていく私に怒りを抱いたっていい筈。なのにしずこさんは、怒るどころか杏寿郎さんに私のことを幸せにしてやれなどと言っている。
…なんで…?
眉間に皺を寄せ考えていると
「なんだいその顔は?」
しずこさんが首を傾げ私の顔を見てきた。
「…あの…しずこさんは…どうして私にそんなにも良くしてくれるんです…?私…そんな風に…思ってもらえるほど…大して役に立ててません…中途半端な状態で…いなくなるし…」
私のその言葉に
「…っ何馬鹿なこと言ってんだい!役に立つとか立たないとか、人と人との繋がりはそんなくだらないもんで成り立ってるんじゃないよ!」
しずこさんは僅かな怒りを孕んだ声色でそう言った。更に
「店を手伝ってくれたことは本当に助かった。でもね、それ以上に嬉しかったのは…こんな可愛らしい子と、一緒に食卓を囲めたってことだ。言っただろう?鈴音ちゃんはもう、私らの娘も同然。ただいてくれるだけで、十分なんだ」
そう言いながら、かさついた手で私の手を取った。そんなしずこさんの言葉と行動が嬉しくて
「……っ…」
私は何も言葉を発することが出来ず、けれどもこのどうしようもない嬉しさを何とか表現しようと何度も何度も頷いた。