第11章 さよなら、ごめんなさい、そしてただいま※
杏寿郎さんは、半ば混乱気味の私の頭を再びギュッと抱き寄せてくれた。
「君は任務や戦いの際は冷静なのに、何故普段はこうなってしまうのだろうな」
その言い方は決して呆れたような口ぶりではなく、どこか嬉しそうにも聞こえるそれだった。
「……だって…」
「だってじゃない。俺は君にそんな顔をさせたくてこの話をしたわけじゃない」
杏寿郎さんはそう言いながら左腕だけ私の頭から離しそのまま背中へと移動させると、幼子を寝かしつけるような手つきで私の背中をポンポンと叩き始めた。
私はそんな杏寿郎さんの顔に恐る恐る視線を向ける。
「胡蝶は君のことを怒っていた。だがそれは、鈴音を心配してのことだ。わかるな?」
「……はい」
「ならば明日、胡蝶の話をきちんと聞き、今後どうすれば良いのかを聞くんだ。いいな?」
「……はい」
そのやりとりは、もはや恋仲同士と言うよりも、師弟関係に近いようなやり取りではあった。けれども
「うむ!いい子だ!」
そう言って
ちゅっ
私の額に落とされた口付けは、恋仲同士でしか交わすことのない甘いそれだったら。
杏寿郎さんは今度は私の身体が外側を向くようにグリンと向きを変えると
「明日は忙しくなる。そろそろ寝よう」
そう言ってまるで大きな枕でも抱えるような動作で私の身体を背後からぎゅっと抱き込んだ。
……熱いし…腕が…邪魔だなぁ…
そう思いはしたものの、背中から包み込まれるようにされるこの姿勢はとてつもない安心感を覚え、寝にくいはずなのにあっという間に瞼が重くなってくる。
明日は胡蝶様のところに行って…その後は…善逸や音柱邸にも…行けたらいいな…
正直に言うと、どんな顔をして会いに行けばいいのかわからない。とっくの昔に私になんか愛想を尽かし、どうでもいいと思われている可能性だってある。それでも私は
…すぐに許してもらえなくてもいい…許してもらえるまで…ちゃんと話を…しよう
大好きな弟弟子に、姉や友と慕う3人に、尊敬する師範ともう一度同じ方向を向いて生きていきたいと思わずにはいられなかった。