第18章 月嗤歌 ED Side A【☔️ ⇄ 主 *♟(激裏)】
風に踊るカーテンの狭間から差し込む蒼い月灯りが、重なるふたつの影を照らす。
ゆらゆら、ゆらゆら、と天蓋のように彼らを包み込みながら、尖った眉月が闇を統べている。
「……んぅ、」
ちゅ、………ちゅ、と小鳥が啄むような音を零れさせながら唇を触れあわせた。
「主様……。」
普段のそれより甘く、溺れるような蜂蜜を纏った声。
その指はヴァリスの顔の両端に置かれていて、すり、と頬ずりした。
「っ………。」
不意を突かれたユーハンがわずかに瞠目する。彼女は少しだけ咎めるような瞳をして見せた。
「ヴァリス、て呼んで」
じっとその両の眼をみつめれば、先刻のそれより荒々しい唇が降ってくる。
「ん、………は、」
喰んだ唇の狭間から熱い吐息が零れ落ちる。
酸素を求めて僅かにひらいた唇をそっとつついたのは、熱くてぬるついた「何か」。
「っ………!?」
驚いたヴァリスのその身から力が抜け落ちた瞬間を見計らって、「其れ」はそっと口腔内へ侵入してくる。
それが彼の舌だと理解する頃には、キスは舌先を触れあわせる淫らなものへと変貌っていた。
「ん、………はぁ、」
重なった唇が時折仄かな隙間を作る度に、吐息のような艶音(つやね)が零れた。
ちゅ、………ちゅる、とかすかな音を零れさせながら、その唇の味と温度を堪能する。
時折ひらかれる瞳はうっすらと涙の膜を纏っていて、
息苦しさに離れようとするヴァリスの頭を引き寄せる、白魚のように優美な指。
けれどその指に込められた力は強く、彼もまた男性なのだと知らしめるようだった。
吐息さえも吸い取るような、甘美で荒々しいキス。
後頭部に添えた指がさらさらと髪を撫でる度に、胸のなかで温もりが滲んでいく。
男性経験のない自分を気遣う彼の優しさが表れているように感じて、
じんわりと彼の与える快楽に馴染みはじめているのだと悟った。