第39章 桜餅か桜酒か(信玄様&謙信様)
「負けました…。お二人とも強いですね」
信玄「そんなことないさ、姫はすじが良かったよ。
な?謙信?」
謙信「ああ。それに舞と対戦できるものがあったとは良い発見だった。
時折また勝負してくれ」
「刀のお相手は出来ませんが、囲碁なら喜んでお相手いたします」
舞は自分が打った黒い石を片付けにかかっている。
姫ならば『片付けろ』と命じれば喜んで片付ける者が居るが、それを良しとしない慎ましい女に謙信も信玄も温かいまなざしを送り、片づけを手伝った。
信玄「さぁて、負けた奴には何か要求しないとな」
「え!?罰ゲームがあるって聞いてないです!」
のんびりとお茶をすすっていた舞は目を向き、謙信も『聞いていない』といった表情で信玄を咎めている。
信玄「そんなに難しいことじゃない。
来年の春、また桜餅を作って欲しいだけだ」
「桜餅ですか…?」
反射的に舞はおやつが入った重箱に目を向けた。
三色団子のとなりで桜餅が行儀よく並び、独特な芳香を放っている。
来年の春に作ることは容易だ。しかし…
(来年の春までここに……居るかな?)
現代へ帰ることを諦めきれない舞の返事は、すぐには出てこなかった。
信玄「あんなに風情のある甘味は初めてだったんだ。
できれば毎年食べたい」
「で、でも……」
いつ現代に帰るかわからないからと確約を拒む舞の手に、謙信の手が乗った。
謙信「なれば俺にも毎年桜茶を出して欲しい。
味を覚えさせておいて、もう作らないとは言わせない」
謙信の傍らには燗をつけた酒が用意されていて、湯気を放つ酒に桜の花が浮かんでいる。
いつの間にか桜茶ならぬ桜酒にして楽しんでいたようだ。
「ですが私達はワームホールが開けば現代へ帰ります。いつ帰るかわからないので毎年というお約束はできません。
明日佐助君と現代の調味料を作る予定ですので、それを使った料理をご馳走するのではダメでしょうか?」
現代へ帰ると改めて意思表示した舞に、謙信は鋭く釘を刺した。