第38章 息が止まるその時に(謙信様:誕生祝SS2025)
目指したのは駅前のレンタカーのお店だ。唯一予約が取れた交通手段は車しかなく、ペーパーだけどこの際仕方がない。
「え?エンジンってカギを差し込んで捻るんじゃなくてボタンなんですか?
あれ……サイドブレーキが無いんですけど、どこですか?
あ、ここですね。ありがとうございます」
ウインカーってこれでしたっけ?と操作したらワイパーが動き、店員さんに酷く心配された。
店員「お客様……本当に京都まで行かれるんですか?
出発前にナビをセットしてあげますよ。うちの京都駅前店に車を持っていっていただければ、ここまで返しにくる必要はないですからね」
往復はムリだからやめておけと遠回しの忠告を受けて、1人、京都へと出発した。
ペーパーの上に戦国時代で数年過ごして運転は久しぶりだ。
最初はぎこちないものだったけど、高速にのって一定速度で走るようになってからは余裕ができた。
(雪原の暴風雪はワームホールだったのかな)
(記憶をなくしていたのはどうしてなんだろう)
(あの時死んじゃったからこっちに来てるのかな)
(京都旅行を諦めさせようとする意図を感じるのは気のせい?)
ナビの到着予想時刻や走行距離は気が遠くなるような数字だったけど、幸い答えの出ない考え事がたくさんあって疲れは感じなかった。
「絶対京都に行かなきゃ…」
私はハンドルを強く握りしめた。