第38章 息が止まるその時に(謙信様:誕生祝SS2025)
――――
新幹線のニュースの後、すぐに行動して正解だった。
というのも次の日になっても新幹線は復旧しなかったし、高速道路を順調に走行していたところトンネルにヒビが発見されたと途中で一般道に下ろされてしまい、気の遠くなる距離をのろのろと走ることになったからだ。
当初予定していたレンタカーの駅前店には渋滞でたどり着けず、郊外の店舗に車を返し、そこから自転車をレンタルして、最後は徒歩で本能寺跡にたどり着いた。
「足がパンパン……っ!
絶対明日は筋肉痛だ」
数々のトラブルを乗り越えてたどり着けたので喜びもひとしおだった。
本能寺跡の石碑前ではぁぁぁ~と大きく息を吐いて休憩した。
「あーもー、これ絶対頑張ったよね、私。
誰かに褒めて欲しいんだけど」
このまま戦国時代に行っても、『よく頑張ったな』と甘やかしてくれる謙信様は居ないだろう。誰も褒めてくれないのが寂しい。
へたりこみそうな疲れの中で時計を見ると、タイムスリップの時間まで余裕があり、周りを見回すとあの日に見かけなかった観光客がチラホラ立っていた。
「そうだ、こうしてる場合じゃない。
あの日と同じ行動をしなきゃ」
あの日と違う状況になれば未来がが変わってしまうかもしれないという恐れから、私は近くに身を隠した。
スマホで何度も日付と時間を確認すること十数分。
観光客は居なくなり、そろそろ石碑の前に立つ時間が迫ってきた。
これから佐助君と一緒にタイムスリップできれば本能寺の夜に降り立つだろう。
その後は頃合いをみて謙信様に会いに行こうと決め、あの日と同じ服で、同じ速度で石碑に向かった。
あと少しという時にキーーーン!という耳鳴りがした。
「っ」
無視できない酷い鳴り方に思わず歩みが止まる。
(こんなひどい耳鳴り、初めて……!)
こめかみを押さえた瞬間、驚いたことに自分の身体から意識だけ外に放り出された。
(な、なに!?)