第37章 姫の年越しシリーズ(2025年)・1月1日
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(姫目線)
元日の初詣を諦めていた私の元へお迎えが来たのは外がすっかり暗くなってからだった。
こんな時間にどうやって行くのかと外に出てみたら、信長様と大勢の付き人達が私を待っていた。
私も信長様も提灯を持ち、前後にはお付きの人達がそれぞれ提灯で照らしてくれたので支障なく歩くことができた。
お寺の灯篭には火が入っていて私達の道案内をしている。
住職が丁寧に出迎えてくれて他に人影が無いところをみると、信長様と私だけのために火を入れて待っていてくれたのだろう。
(気軽に初詣のつもりが大ごとになっちゃった…)
護衛に護衛がついているのもちょっと変な事態だしおかしくてたまらない。
「提灯も灯篭も本物の火を使っているんですね。
信長様には珍しくもなんともないかもしれませんが、私の時代では全部電気というものを使うので本物の火の明かりがとても幻想的に見えます」
信長「火など行燈で見慣れているだろう。
よそ見をしていると転ぶぞ」
なんてロマンチックな初詣だろうと遠くばかり見ていて雪道のくぼみに気づいていなかった。
ソロリとくぼみを避けて信長様の後をついて行く。
(行燈の火をぼーっと眺めていることがあるって言ったら信長様は笑うだろうな)
ちらちらと揺れる明かりは不安定なのに安心感を与えてくれる。
幻想的な眺めの真ん中を信長様と歩く。
そんな完璧すぎるシチュエーションになんだか気持ちが浮ついた。
ガランガラン!という現代と変わらない鈴音は、私にとって年の始まりを感じ、気分を新たにさせてくれる音だ。
信長様が神仏を信じていないことに気づき慌てたものの、隣で参拝の手順をしっかり踏んでいる気配に感心した。
自分で要らないと思っているものに対し、しっかり知識を有しているところが凄い。
(今年は戦がおこりませんように、皆が怪我をせず元気に過ごせますように、優しい恋人ができますように、えーと、えーと…)
願い事は1個じゃなすまないとたくさんお願いしていたら随分かかった。