第34章 呪いの器(三成君)
「ええ、お義母様は一人娘の夕夏姫をとても大事にされているそうなのですが、大名の目が届かない場所では『千代姫よりも自分の娘の方が素晴らしい』と言いふらし、きつく当たってくるそうです。
義母が安土に同行せずほっとしていると言っていました」
光秀「側室だった頃のうっ憤がつのり、千代姫が目障りでしょうがなくなったか…。
仮にその義母が犯人だとすると、今頃はこの簪が舞に渡ったことにほくそ笑んでいるかもな」
「呪いの品が他人に渡ったら慌てるんじゃ…?」
信長様がくくっと乾いた笑いをこぼした。
恐ろしく冷えた笑い方にゾッとした寒気が走った。
信長「その辺の輩に渡ったのでは慌てたかもしれんが、貴様は俺の験担ぎだと流布している安土の姫だ。
その姫に贈った簪が呪いの品だと判明すれば千代姫は死罪だ」
「そんな…」
もし事実なら継母と娘のよくある不破というレベルじゃない。
継母とは無関係の私に危害を加えてでも千代姫の死を望んでいるとしたら恨みは相当深い。
信長「舞が体調不良ということは義母の耳にも届いておろう。
義母が犯人であれば、原因が簪にあると俺達が気づくのを今か今かと待っている頃だ」
「そんなっ…」
信長「血縁同士で殺し合う時代だ。
血の繋がっていない前妻の娘など躊躇いもなく殺すだろう」
「……」
一つ屋根の下で暮らし、何度も顔を合わせて、どうして簡単に殺そうと思えるんだろう。
仮に対象を殺せたとしてひとかけらの罪悪感もないまま人生を歩めるのだろうか。
(距離をとるとか平和的な選択はいくらでもあるのになんで殺すの?)
自分だったら人間関係が上手くいかないからという理由でこの手を汚したくない。
この時代の殺人に対する意識が低すぎて恐ろしい。