第10章 雪の夜
「無視してるうちに、辞めとけば良いものを」ととてつもなくドスの低い声で呟いた悟は、後ろを振り返ると恐ろしいほどの視線で女性を睨み付けた。
私も悟に合わせるようにして後ろへと振り返る。
色白で整った顔立ち、漆黒の艶がある髪は綺麗にまとめられている。
桜色の着物に身を包んだ女性は、とてつもない美人で…とても綺麗な人だと思った。
そんな美人を平気で恐ろしい目付きで睨み付ける悟はやっぱりある意味凄い…しかも婚約者なんじゃ…
それよりもこんな美人さんの前にパジャマで立っている私って…恥ずかしすぎるのでは…なんて思えてくる。
「まだ居たのかよ」
そう吐き捨てる悟の声は、聞いた事もないほど冷たく冷徹で…思わず私でさえビビってしまう。
だけれど目の前の女性は特に表情を変えることなく、再び口を開くと。
「そちらの女性は?」
それはどう考えても私の事で、彼女は私を上から下まで見つめた後、悟が握っている私の手で視線を止めた。
私はハッとして手を離そうと引っ張るけれど、何故か悟はその手をギュッとさらに強く握り離させようとしない。
目の前で婚約者が他の女性の手を握ってたら、そりゃ嫌だよね。いくら友達だとしても、私の事なんて知らないわけだし…
どうしようとオロオロしだす私に、悟は視線で「黙ってろ」と言いたげに見下ろすものだから、開こうとしていた口を急いでつぐんだ。