第17章 ❤︎ ぼくなつ 木兎光太郎
「わ、動いた」
「ははっ、当たり前だろ?」
「ねぇ、これ、どうするの?」
「どうって、適当にハンドル動かしながら適当にまっすぐ進むんだよ」
「え?適当?動かすの?」
光太郎さんの言うとおり少しだけハンドルを切れば、真っ直ぐな道のりなのに切った方向に車は傾く。
「だーっ、真っ直ぐ進むのにハンドル動かすなって。真っ直ぐ、カーブに入れば道のラインに沿ってゆっくり動かして?」
「あ、はい…」
「そうそう…、ゆっくりでいいから。あんま左に寄るとマジで脱輪して川へドボンだから」
「分かってる。そういうこと言わないで」
「ははっ、姿勢めっちゃいいな。こんな前傾で運転する子初めて見たわ」
「だから…っ、ペーパーだって言ったでしょ?それなのに…、こんな山道で運転させるなんて…鬼!」
「いいねぇ、鬼って言われるのも。あ、そこ左に切って?内輪差気をつけてなぁ」
「何!?内輪差って何!?」
「教習所で習っただろ?ちなみにこの車、まだローン残ってるからね、よろしく」
「だから…っ、プレッシャーかけないで…」
「はははっ、やっぱり面白いな、いちかちゃんって」
「全然面白くなんてないっ!」
「もう少しだからなぁ。頑張れよー」
一人楽しそうに呑気に構えて。後で絶対赤葦さんにチクってやるんだから……。
無事に帰れたら…だけど。