第17章 ❤︎ ぼくなつ 木兎光太郎
たらふく朝食を食べた後は民宿を出て光太郎さんの車に乗りこむ。後部座席にはおばさんがこしらえたであろうお弁当が紙袋に入れられていておかずのいい香りに包まれている。
「車で20分くらいのところだから」
「了解」
「山道通るけど大丈夫?」
「平気だよ」
「帰りはドライブして帰ろうぜ。雨だしく曇ってるから天気は悪いかもしれねぇけど」
「行きたい。車に乗ってるだけでも楽しいから」
「そう?じゃあ安全運転で…」
エンジンがかかりゆっくりと車が前に進んでいく。仕事ついでとはいえまたこうやって二人でいられる時間がうれしかった。
しばらくして車は山道へ入っていく。細い山道で雨も降っているし昼間なのに薄暗くてすこし不気味だったけど、陽気な洋楽と光太郎さんの慣れた運転のおかげで安心していられた。
「向こうではどんな生活してたの?」
「普通だよ。朝学校に行って夜はバイトして毎日その繰り返し」
「なんのバイト?」
「いろいろしたよ。接客から調理補助、家庭教師とかだいたいそんな感じで」
「すげーな。なんでもできんじゃん」
「でも接客は合ってないかな。クレーム対応とか下手で逆に怒らせちゃったりってよくあったもん」
「いちかちゃんに怒るの?」
「そう。おじさんにすっごく怒鳴られたりおばさんにネチネチ言われたり…」
「こんなかわいい子に怒鳴るなんて鬼だな」
「こっちに落ち度があればいいんだけど、結構お客さんの勘違いだったりってこともあったから、なんだかなぁっていつも思ってた」
「そらストレスも溜まるわ」
「それに元カレとうまくいってなかったのもあってあの時は本当に辛かった。すれ違ってばっかりで会えば喧嘩になって私ってなんなんだろうって思ってた。友達の幸せそうなSNSなんて見ちゃうと理由なく嫌な気持ちになってそれで自己嫌悪。最後にはうまくいってることすらそう思えなくなってきちゃってた」
「そりゃあ心が疲れたまんまだったんだな…。でも思い切って休みとってよかったな」
「そうなの。私ね、ここにきてすごく元気になったと思うの。時間もゆっくり流れてなんにも急がなくていいし何よりみんな優しい」