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(R18) kiss hug ❤︎ HQ裏夢

第72章 結婚するまで帰れません(1) 岩泉一


両手で抱えたいちかは思ったよりもずっと軽かった。ふわっと香る甘い匂いと女を抱くこの感覚。……ヤバい、そう直感が働く。

「ちゃんと持ってろよ」
「…うん」

車までの数十mがとてつもなく長く感じて必死で理性を働かせる。“おおきに”そう呟くいちかに返事を返す余裕すら俺にはなくて何とかいちかを後部座席へと降ろした時には心臓はバクバクと高鳴っていた。

「じゃあいちかちゃん、連れて帰るから」
「ああ」
「一、今日の練習は何時までなの?」
「多分15時過ぎ」
「だったら練習が終わったらすぐに帰ってきてね。お母さん、夕方から用事があるのよ。いちかちゃんのこと心配だからうちでいてもらうつもりだし誰もいないと心配でしょ?」
「そりゃいいけど俺、何すればいいか分かんねぇんだけど」
「何もできなくてもそばにいればいいの」
「そういうの苦手なんだけど」
「女の子が辛い時に優しくできるかどうかが今後のあんたの男としての人生に関わってくるんだから。それだけは肝に銘じておきなさいね」

“いいわね?”と念を押した後、母ちゃんは運転席へ乗り込む。それと同時に後部座席の窓が開いていちかが顔を出した。

「一君、ありがとう」
「ちゃんと休めよ」
「うん」

太陽の陽が当たってもやっぱり顔色は悪く見えるし普段の活気もない。何でもっと早く気付いてやれなかったんだろうって後悔もあっって母ちゃんの最後の言葉が浮かぶ。

優しくしろとかそばにいろとかそんなの頭で分かっててもどうすりゃいいんだよって話。けど優しくできなくて失ったもんもある。んなこと言われなくてもとっくに経験済みなんだよ、俺は…。
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