第4章 ヤクザと生贄彼女
キスマークの事を言われ、恥ずかしくなる。
神宮寺先生も、ちょっと意地悪だ。
「左馬刻君の相手をしている割に、君は意外に初なんだね」
はははと笑いながら、また頭を撫でられる。
左馬刻さんになかなかのイメージを持っているのか、軽くディスられたような気もしなくもない。
完全に子供扱いされているけれど、神宮寺先生の雰囲気のせいだろうか、頭を撫でられるのは悪い気分じゃなかった。
ほっこりしてしまって、自然に笑ってしまう。
「先生、悪ぃけど、あんまそいつに気安く触んねぇでくれるか? いくら先生でも笑えねぇ」
「おっと、これはすまない。可愛くて、ついね」
神宮寺先生が私を見て、ニコリと無邪気に笑う。何処か楽しんでいるみたいに見えない事もない。
タバコを吸いながら、無表情でこちらを見る左馬刻さんがいた。
「ほら、スマホだ」
スマホを手にして左馬刻さんを見ると、何か言いたげな顔で見られるけれど、すぐ視線が逸らされる。
「それじゃ、私はこれで失礼するよ。考えが纏まったら、連絡をくれるかい? 待っているよ」
神宮寺先生にコートを返し、頭を下げて見送る。
沈黙。
「えっと……用事は、もういいんですか?」
「ああ」
会話が続かない。怒っているのだろうか。
「あの……」
「考えって何だ?」
「へ?」
私の言葉を塗り潰すように、低い声がする。突然掛けられた質問に変な声が出た。
「連絡って何だ」
一瞬何を言っているのか分からなくて、考えてしまった。
神宮寺先生にされた話を、軽く説明する。
「ほぉ……さすがは医者だな。で、どうすんだ?」
「正直、考えた事がなかったので、分からないです……」
けど、少しでも見られる体になるなら、ちょっとは期待してもいいのだろうか。
左馬刻さんの隣に、自信を持って並びたい。
なんて、夢みたいな事、叶う日が来るわけがない。
なのに、やっぱり私は何処かで期待している。
「でも、もし、少しでも希望があるなら、かけてみたいです」
あの男と出会ってから、初めて自分の意志を示した気がする。
左馬刻さんは「そうかよ」とだけ言って、私の頭に手を乗せた。
「わわっ! ちょ、左馬刻さんっ!?」
髪を乱暴に掻き回される。