第42章 推すのに忙しい私を押してこないで*煉獄さん
私は少し前にもした通り額を地面に擦り付け
「…っ私の生きがいは、蜜璃様の幸せそうな顔を見ていることです!あの可愛らしい顔を見ていると、心が満たされるんです!お願いです…私の生きがいを奪わないで下さい!覗きは金輪際我慢すると約束します!ですから…蜜璃様にはどうか私のこの行いを黙っていてください!お願いします!!!」
煉獄様にお願いをした。
「……むぅ」
煉獄様は、そんな私の様子にどうするべきかとても悩んでいるようだ。
「…っお願いします!蜜璃様にお食事を作る事が、蜜璃様の幸せが私の幸せ!蜜璃様のお傍にいることが私の生きがいなんです!!!」
我ながらなんてずるい言い方なんだろうと思う。それでも、蜜璃様の側を去らなければならない結果を避けられるのであれば、煉獄様にずるいと思われようと、滑稽だと思われようといいと思った。
「……」
煉獄様は何かを考えているのか、しばらく黙り込んでいた。それから10秒ほど経過し
「やはり俺には君の気持ちが理解できん!」
そう言いながら先ほどと同じように私の身体を起こし上げ、額についた土を払った。
それから煉獄様は、猛禽類のように鋭くつり上がった目で私のそれをジッと見てきた。あまりにも真っすぐと覗き込んでくるその目に、なんだか胸がドキリとしてしまう。
「甘露寺は甘露寺。柏木は柏木だ。人の幸せを自分のもののように幸せだと感じられる君の心は素晴らしい。しかし、過剰にそうなってしまえば必ずしもいいこととは言えない」
「……なぜですか?」
私がそう問いかけると、煉獄様は私の左肩にポムチと大きな右手の平をのせた。
「柏木。君の下の名は何という?」
「……すずねです」
「すずねか!いい名だ!」
煉獄様はそう言うと、今度は右肩の方にも手を置いた。
「柏木すずね。君の命、そして心を、甘露寺が救ったことは確かな事実。だからと言って君の人生を甘露寺に捧げる必要も、重ねることもする必要はない。俺たちはそんなことを望んではいない」