第28章 雨降って愛深まる✳︎煉獄さん※裏表現有
物心ついた時から
”貴方は将来、代々鬼狩り様として私たちをお守りしてくれている煉獄家に嫁ぐのよ。恥ずかしくないよう器量のいい心の強い女になりなさい”
そう言われてきた。
どうして私の人生をそんな風に決められないといけないの?
そう思いながらも、反抗するほどの理由はなく、その言いつけに従って家事全般、煉獄家の男の妻になる心得、そしてまだ見ぬ伴侶を喜ばせるための夜の知識諸々授けられた。
そうやって私は今後の人生決められた通り、”代々鬼狩りとして私たちをお守りしてくれている煉獄家の当主を支え、子を成すために生きていく”しかないのだとそう思ってきた。
それがある日、私が婚姻を結ぶ予定だった相手、煉獄杏寿郎様自ら柏木家へと婚約解消を申し出にやってきた。両親に自室にいるよう命じられた私だが
散々人の人生を振り回しておいて今更馬鹿なことを言わないで欲しい
そんな思いを抑えることが出来ず、一言文句を言ってやろうと両親と煉獄杏寿郎様が話している客間に乗り込んだ。
”お話し中失礼いたします”
一言声を掛け、返事を聞く前に襖を開けると、驚き慌てふためく両親と
…綺麗な…髪
今まで見たことのない、炎のように綺麗で癖毛がちな髪を持つ男性の後頭部が見えた。身に着けている羽織も、まるで炎を彷彿とさせるような作りで、その髪色ととても似合っており、目を奪われそれ以上何も言えなくなってしまった。
煉獄杏寿郎様がゆっくりと振り返り
パチリ
その綺麗な瞳と目が合った瞬間、私は息をするのも忘れてしまった。
煉獄杏寿郎様は顔だけでなく身体全体の向きを私の方へと向けると
”君がすずねさんか。こちらの都合で君の人生を縛ってしまったこと、心から申し訳ないと思っている。だが今の煉獄家は以前とは違う。嫁いで来てもらっても、君に大変な思いを強いるだけ。古いしきたりに従わなくていい。婚約はなかったことにしよう”
そう言って頭を下げてきた。
煉獄杏寿郎様と出会ったこの瞬間、私の鈍色だった人生は色鮮やかな世界へと変化を遂げた。