第22章 残りの時間、私が貰い受けます✳︎不死川さん
私はこの、
”女同士の秘密の話”
という感じがとても嬉しく、自然と口角がきゅっと上がってしまった。私も、禰󠄀豆子ちゃんが私にしてくれたように禰󠄀豆子ちゃんの耳に口を寄せ
「絶対に送る!不死川様には内緒で…ね」
そう言って禰󠄀豆子ちゃんと私は再び笑い合ったのだった。
蝶屋敷で見送られたのと同じように、禰󠄀豆子ちゃん、そして善逸君は私達の姿が見えなくなるまで手を振り続けてくれた。
…やっぱり少し…寂しいな。
そんなことを考えながら来た道を振り返っていると、
「おらっ。いつまでものんびりしてるとあっという間に暗くなっちまう。…行くぞォ」
そう言いながら不死川様が私の右手をその左手でぎゅっと握り、引っ張るように歩みを速めた。
…手…握られちゃった…!
それだけで、嬉しくて天にも昇るような気持だった。けれどもふと荷物を括り、肩に担いだ棒を持つ手が、欠損のある右手であることに気が付いた私は
「…嬉しいですが…それだと荷物が持ち辛くないですか?手…握らなくても…大丈夫ですよ…?」
私がそう言うも
「あァん?そんなん心配されるほどやわじゃねェよ。いいから黙って手ェ引かれてろォ」
そう言われてしまったので
「…わかりました…」
喜び踊る心のまま、私もその手をぎゅっと握り返した。
「これからどこに向かうんですか?」
「まだ、決めてねェ。だが手始めに…温泉でも行くかァ?」
「温泉!?行きます!やったぁ!温泉大好きなんです」
そう言いながら繋いでいる手をブンブン振るように動かすと
「子どもみたいに手を振るんじゃねェよ。歩き難ィだろうがァ」
そうちくりと言われてしまった。
「すみません…つい嬉しくて」
シュンと力なく答えた私の様子が可笑しかったのか、不死川様はくくっとほんの少し笑った後、
「…んなはしゃがなくても、温泉なんていくらでも連れて行ってやらァ…迷子にならねェでちゃんと着いて来いよ?…すずね」
私の名前を初めて呼んでくれたのだった。