第21章 おにぎり大合戦【さつまいもvs鮭】
手に持っていたおにぎりを一旦お皿に置き、
「すみません!全然気がつかなくて!」
慌ててそう師範に頭を下げた。
「どうした?何故急に謝る?」
そんな私の行動に、師範は首を傾げ、不思議そうな顔をしている。
「…師範、私が鮭のおにぎりばかり握るようになって、サツマイモの炊き込みおにぎりを食べる機会が減って、寂しいんですよね?そうなんですよね?いつも美味い美味いって喜んで食べていてくれたのに…気がつかなくてすみません!今日からまた、鮭のおにぎりとサツマイモの炊き込みおにぎり、同じくらい作ります!だからそんな顔、しないで下さい!」
そう言って、私が師範の顔を見上げると
「……柏木は…俺が思っているより鈍い性分らしいな」
そんなことを言われてしまい、
「…?…すみま…せん…?」
どういう意味で師範がそう言っているかもわからないまま、条件反射のように謝ってしまった。
「謝る必要はない。だが、一つ確認させてもらう。柏木と冨岡は、所謂恋人同士と言う関係ではないのだな?」
「…恋人…同士…?」
一瞬、何を聞かれているか分からず、私は師範からの質問を心の中で何度か反芻する。
恋人同士…?ん?私と…冨岡さんが?
え?なんで?どうして?
聞かれている質問の内容はわかる。けれども私は、何故師範がそんな事を私に聞いてくるのか、いまいち理解が出来ずにいた。
「もちろん違います!私が柱である冨岡さんの恋人だなんて、そんな烏滸がましいこと、あるわけないじゃないですか!…私はただ、私の好きなおにぎりを、他の誰かも美味しいって言ってくれるのが嬉しいだけなんです!」
今は亡き弟と重ねてしまっていることは、どうにも口にすることがはばかれ、師範にも言うことが出来なかった。
「そうか!それは良かった!」
師範は満面の笑みを浮かべ、私の頭をポンとひと撫でし、
「この後は俺と柏木、共同で任務だ。頼りにしている」
そう言って台所を出て行ってしまった。私は去っていく師範の背中を見つめ、
…"それは良かった"って…どういう意味だろう…?
そんなことを思いながら、少ししんなりしてしまった海苔に手を伸ばし、綺麗な三角になっているおにぎりをそれで包んだ。