第8章 * 愛おしい君
「あ、中に手紙も……」
手紙には短くこう書かれていた。
『結、結婚資金や。幸せになれ』
白い紙にポタ、ポタ、と丸いシミができていく。
結はそれを大事そうに胸に抱くと、ポロポロ涙をこぼしながら「あり、がとうございました……」と呟いた。
オレは震える結の背中をゆっくり撫でる。
いつも口が悪く素直では無いが、楼主は結を本当に娘のように愛していたのだろう。温かい楼主の愛に、オレまで目頭が熱くなる。
「また今度、改めてお礼に行こう」
「うん……」
その手紙を見ながら、オレも結に渡しそびれた物があったと、自分のカバンから一つの小箱を取り出す。
「結、これ……」
それは、あの時の結の両親の写真が入った木箱だった。
あの火事の日、楼主を助け出し安全な場所に寝かせた後、オレは一人でもう一度建物の中に戻り、この木箱を探した。これは結と結の両親を繋ぐ唯一の物だから。
結は涙に濡れた目を見開いて、それからそっと箱を受け取った。
「火事んなって、もうこれはだめやって、諦めとった……。
カカシ。ありがとう、ありがと……」
ぎゅうっと抱きついてくる結の頭をそっと撫でる。
「その手紙もここに入れとかなきゃね」
コクコクと結が何度も頷く。
「結、幸せにするから」
柔らかな体を抱きしめ、長い髪に顔を埋めて頭にキスをすると、結が涙に濡れた目でオレを見上げ笑った。
「わたし、もうすでにこれ以上ないくらい幸せやよ……」
結がオレの頬を両手で包んでキスをする。
閉じた目からまた流れた涙が綺麗で、愛しくて、気持ちが溢れだす。オレは結の頭をグッと抱き寄せると、キスを深くし、そのまま膝の上に抱き上げてぎゅっと抱きしめた。
力を入れすぎると折れてしまうんじゃないかと思うくらい華奢な結の体。熱も、柔らかさも、しっとりとした肌の匂いすらも、今はすべてオレだけのものだと思うと、堪らなかった。