第8章 * 愛おしい君
日が暮れるころ、晩ごはんを食べ帰宅した。思ったより時間はかかったが、ある程度生活に必要な店も案内できたし、まだ足りないものがあれば、明日以降、結一人でも買いに行けるだろう。
「明日からお手伝いさんに週3で昼、夜のご飯頼んでて、冷蔵庫に作り置きしてもらえるから。なるべく昼も帰るようにするし、ここで一緒に食おう」
「……うん」
分かりやすく結のテンションが下がる。
「……今、自分が役に立たないとか思ってるでしょ」
「だって、そーやもん……」
オレはソファに三角座りする結のところまで行くと、ぷにっとその柔らかなほっぺを優しくつねる。
「オレは飯作ってくれることなんて望んでない。できないことは頼めばいい。オレは結にそばにいて欲しいだけ」
小さく丸くなった結を抱きしめる。
「掃除と洗濯は頑張るから……」
結が小さな声で答える。
結は刃物が使えないことがかなり劣等感になっている。いつかそれも、他に自信を持てることができて、薄らいでいけばいいな。
「結、無理しないでね」
くしゃくしゃとまっすぐな髪を撫でると、結がぎゅうっと抱きつく。でもすぐにばっと離れて頭をぶんぶん振る。
「ゴメン!わたしめっちゃめんどくさいな。もぉやめやめ!ごめん!!」
「全然めんどくさく無いよ」
「もーカカシはわたしを甘やかしすぎ……」
結が眉を下げて心底困ったようにオレを見る。
少し乱れた髪を耳にかけてやりながら、オレも結を見つめる。
「ふふ、だって可愛いからしょうがないでしょ。さ、買ってきた荷物片付けちゃお」
「え?明日やるからいいよ!カカシは明日からまた仕事やし、今日はもうゆっくりして!」
「いいからいいから」
「ありがとう」
「ん」
二人でガサガサと荷物を開けていると、結が「あ」と声を上げる。
「どうしたの?」
「花街を出るとき親父さまに風呂敷包みを渡されたん忘れてた」
「開けてみたら?」
「うん」
風呂敷包みを開けると、中から5つの紙で巻かれた札束が出てきた。
「え?これ……」
「これ多分、オレが楼主に渡した身請け金だ……」
一度2人で顔を見合わせ、また風呂敷に視線を戻す。