第7章 門出
カカシが連れてきてくれたのは、花街からほど近い、小さな、でも趣のある宿だった。
「ではごゆっくり」
宿の人は、夜遅く煤だらけで訪れたわたしたちに驚いたようだったが、何も言わず部屋に案内してくれた。
中居さんが部屋から去ると、わたしはペタリと座り込んでしまった。
「疲れたでしょ?
先、風呂入っておいで」
部屋の奥には露天風呂が付いており、2人でも十分入れる大きさだった。
「カカシも疲れたやろ?
一緒に入っちゃお?」
「や、先入ってきて」
「なんで?カカシも早く入りたいやろ?」
「んー……、や、一緒に入ったら何もしない、自信ない……」
めずらしく恥ずかしそうにするカカシにニヤニヤしてしまう。
「していいよ」
ピタリとひっつくと、グイッと離されてしまう。
「もー今日はダメ。
はいはい早く入る!!」
いつの間に用意したのか、タオルと浴衣を渡されお風呂の方に押される。
「えー」
渋りつつも、お酒も飲んでたし、色々ありすぎて今にも瞼が落ちそうだった。
ありがたく先にお風呂に入らしてもらい、髪を乾かす間にカカシも入ってすぐに2人で布団に入った。
カカシの布団に手を忍び込ませ手を握ると握り返してくれる。
重い瞼を必死に開けて、なんとか言葉を紡ぐ。
「カカシ、今日はありがとう、ね……」
「うん。
楼主、火傷も大したことなくてよかったね」
「うん。…カカシがいてくれて、よかった……」
カカシは柔らかく微笑むと、頬に落ちていた髪をそっと耳にかけてくれる。
そのあと、おやすみとちゃんと言えたかはわからない。
わたしはそのまま深い深い眠りに落ちていった。
翌朝、早めに朝食を用意してもらい身支度を済ませると、わたしたちはすぐに花黎館に向かった。
親父さまはすでに退院して、私たちを待っていた。
顔色のいい親父さまに安堵する。
「もう起きて大丈夫なん?」
「ああ。医者もええ言うてるから大丈夫や」
「よかったです」
親父さまは、安堵して微笑むカカシをチラリと横目で見て、すぐに目を逸らす。
「お店、どおするん?」
「とりあえず、従業員はそれぞれこの花街の他の店で預かってもらえるようなったから、店を立て直したら再開するつもりや」