第3章 奇跡の夜、口付けの朝
ほら、やっぱりね……。
「あ、や、ゴメンって言うのは好きに対してじゃなくて……」
「え……?」
そっと離された手。
見上げると、カカシが困ったように眉を寄せて頭をガシガシとかいている。
「あー。カッコ悪いな、オレ……。
ゴメンって言うのは、自分の気持ち誤魔化したことについて、だから」
「どういう、こと?」
「んー。だから、あのね。
さっき夕月がなんで抱かないの?みたいなこと言ったでしょ?
教え子のことも、ウソじゃないよ。
でも、一番は、中途半端に気持ち伝えないまま抱きたくなかった。
夕月は、オレが金払ってる以上、仕事だから断れないでしょ?
だから、ちゃんと思い合えてから……って、思ってて。
まさか夕月がオレのこと好いてくれてるなんて、思わなかったし……。
っ……。て違うな。
だから、つまり……」
言い淀むカカシの耳が赤い。
こんな取り乱したカカシ、初めて見た。
早く、続きが聞きたい。
「つまり?」
「つまり、オレも、夕月が好き……」
心臓がドクドクうるさい。
足のつま先がジンとして、体中が熱い。
カカシを見たいのに、嬉しくて涙で視界が歪む。
「あー、好きって言うのって、すごい恥ずかしいね。
夕月に先言わせちゃうし、オレほんとカッコ悪……」
続きを言わせないようにカカシに抱きつく。
「カカシは世界一カッコいいよ!!」
「……ホント?」
「うん!」
肯定するようにぎゅっと抱きつくと、カカシも腕を回して抱き締め返してくれた。
「ずっと、こうしたかった……」
囁いたカカシの唇が、布ごしにわたしの耳に触れる。
「夕月、キス。していい?」
口布ごしだけど、低い声で耳元で囁かれて、ゾワリとして声が漏れそうになる。
「っ、うん……っ」
返事が終わるか終わらないかのうちに、口布を下ろしたカカシの唇が、私の口を塞ぐ。
触れるだけの優しい、優しいキスだった。
少し離れた顔。
物足りなくて、もっとして欲しくてカカシを見上げると、カカシが困ったように笑う。
「そんなもの欲しそうな顔で見られたら、止まれなくなるでしょ」
「止めんといて……」
「……っ、そんな煽って、後で泣いても知らないからね」