第2章 桜の香
目を開けると見覚えのある天井が見えた。
ぼーっとする頭でまばたきを繰り返す。
「あ、起きた?」
いるはずのない人の声にばっと起き上がり振り向くと、本から顔を上げたカカシと目があった。
急に起き上がったからか、かすかに頭が痛んだ。
「どこか痛む?」
顔をしかめたわたしを見てカカシが腰を浮かす。
「……あ、もう大丈夫。
急に起き上がったから、頭がちょっと痛かっただけ……。
っあ!沙耶は?沙耶は大丈夫!?」
須藤が来た時、沙耶は張り倒されたように見えた。
怪我をしたり泣いたりしていないだろうか。
カカシはわたしの剣幕に驚いたようだったが、すぐに笑顔になると、沙耶が擦り傷だけで済んだことを教えてくれた。
「よかった……。
カカシが、助けてくれてんやんね?
ありがとう……」
「どーいたしまして。
もう大丈夫そうだけど、起きたら医者呼んでって言われてるからちょっと行ってくるね」
カカシが立ち上がる。
「自分で行くからだいじょ……」
布団から立ち上がろうとすると、カカシに肩を軽く押され布団に戻される。
「さっき意識無くなったばっかなんだから、大人しく寝てなさいな」
「……ありが、とう」
「ん」
カカシは満足そうに笑うと、軽い足取りで部屋を出て行った。
何でここにカカシがいるのかとか聞きたかったのに、聞きそびれちゃったな。
でも、会えた。
それだけで嬉しくて、わたしはさっきまで怖い目にあったことも忘れて、顔が緩むのを感じていた。
医者に診てもらい異常がないことを確認した後、またカカシと部屋で2人きりになる。
前の時みたいに、テーブルを挟んでお茶を飲む。
「わたしな、刃物見るとあかんねん……。
頭、真っ白なって息もできんくなって」
思い出しただけでざわりと嫌な感覚に囚われる。
「うん。夕月が寝てる間に、楼主に夕月の過去のことちょっと聞いた。
勝手に、ごめん……」
「ううん。秘密にしてる訳じゃないから大丈夫」
わたしが6歳の頃、家に強盗が押し入って父と母が刃物で切り付けられ殺された。
わたしも刺され重傷を負ったが、奇跡的に一命をとりとめた。
でも、わたしはそれ以来刃物を触るだけじゃなく、見るだけでも調子が悪くなってしまうのだ。