第5章 桜 色 の 泪[煉獄杏寿郎]
首は鏡で見ないとわからない。もしかしたら、とんでもない場所にもついているかもしれない。
それは杏寿郎様に白状させよう。と一人頷いていると、そろっと申し訳なさそうに襖が開いた。
「はな…?」
隙間から琥珀色の瞳が私を捉えて目を細めた。
そんな嬉しそうに緩く弧を描く目を見たら、何も言えなくなってしまう。
「起きたのか? 一人にしてすまない。体はつらくないか? 腹が減っただろう?」
一気に三つも問いながら私のそばに来る杏寿郎様が可愛くて、つい手を伸ばしてしまった。
私の手を取り、手のひらに口づける杏寿郎様はやっぱり温かい。
「さっき目が覚めたばかりです。体は少しだるさがあるけど、幸せの余韻なので大丈夫。お腹は…減りました」
「そうか! 父上が鰻重を買ってきてくれたぞ」
「槇寿郎様に気を使わせてしまいましたね」
「おかげで君を思う存分抱くことができた」
私の指先を甘く噛む杏寿郎様に危うく絆されそうになった。 私には、言うべきことがあるのだ!
「あの杏寿郎様!」
勢いよく起き上がり詰め寄ろうとしたのに、まんまと腕を引かれて口は塞がれてしまった。
「んっ…」
「いきなり起き上がると危ないぞ」
だからって唇を塞ぐ方が心臓に悪い。それに詰め寄る勢いも奪われてしまった。
「君の言いたい事はわかっている。先に謝りたい。すまなかった…やりすぎた」
唇を離した杏寿郎様は、居住まいを正して私の首の一点を指でなぞりながら、凛々しい眉を下げている。
杏寿郎様の指の置かれた場所は髪を下ろしたくらいでは隠れず、着物の襟も届かなそうな場所。
「わかってやっていたのですか?」
「いや…その時は無我夢中だったのでな…冷静になってから、その…やりすぎたと反省した。ここは、髪でも着物でも隠れ…ないな」
しゅんと声まで小さくならながら、片手では握ったままの私の手をさすり、もう片方の手では首の跡を撫でる忙しい杏寿郎様。そんな姿を見せられたら、仕方ないかと甘くなってしまう自分がいた。
「私も…杏寿郎様の好きにして欲しいと言いましたし、おあいこです!」
「怒らないのか…? 君からの雷を覚悟していたのだが」
「こんな熱い想いをぶつけられた後に怒るなんてできません。でも、今度は控え目にお願いします」
「うむ! 善処する!」