第5章 桜 色 の 泪[煉獄杏寿郎]
己の無力さに腹が立ち、悔しくて立ち止まりそうな日も。
俺は今までそれらを全て腹の底に押し込んできた。誰にも悟られないように。それがいつからだろうか…。いつからだか忘れてしまうほど自然に、君は俺の中の弱さも脆さも掬い取って行ってしまった。
だから俺も、君の喜びや幸せは分かち合い、君のつらさは全て俺が引き受ける。だから俺の隣にいて欲しい。
項に当てた手ではなを引き寄せると、そっと唇を重ねた。
食むように唇で唇を挟むと腕に力が入った。
それを合図に舌を滑り込ませると、それに纏わりつくようにして応じてくる。
「…ん」
艶のあるしっとりとした声が鼓膜を擽って、汗が湯に落ちる音がやけに異質に響いた。
「出ましょうか。私ものぼせてしまいそうです」
湯にのぼせたのか、はなにのぼせたのかわからないくらい胸は高鳴って、体は火照る。
己の昂りは痛いほど立ち上がったままだ。
「すまない。俺の気がせってしまったせいだ」
「私ももっと先のことをしたいです。この体は杏寿郎様のものです。杏寿郎様の思うままにしてください」
そう言ってはなは汗の流れたこめかみに一つ口づけを落とす。
「随分と誘い方が上手くなった」
「本音を言っただけです。早く杏寿郎様と繋がりたい…から」
恥ずかしさからか、ぐっと胸を押し付けるようにしがみついた姿に堪えが限界を超えた。
「部屋へ行く。今すぐに抱きたい」
脱衣場で軽く体を拭くと、抱いたまま俺の部屋へと向かった。足早に廊下を抜けると部屋の布団の上へと寝かせた。
はなを組み敷くと、布団のひんやりとした感覚が伝わってきて、火照った体を適度に冷してくれるようだった。
見つめる先には情欲の色を称えた瞳と、無造作に散らばった漆黒の髪。
ぞくぞくと体の奥から湧いてくる欲に突き動かされ、思わず白い肌に滴る雫を舌で舐めとった。
「んっ…あっ…っ」