第3章 懐 想 [煉獄杏寿郎]バレンタイン
はなとキッチンで料理をする
この何気ない日常が宝物となって積み重なっていく
「うーん……杏寿郎さん…ごめんなさい…」
『なぜ謝る?』
「私…本当…なんでこんな色気のないメニューにしたんだろ…気付いたら…こんなになってて…」
テーブルの上には、はながやけどしながら揚げた天ぷらに、茶碗蒸しと鯛の煮付けに手まり寿司
その中のローストビーフとサラダと…和洋折衷だ
なんとも賑やかだな…
確かに俺は、洋食より和食派だが…
『そんなことない。どれも美味しそうだ。ありがとう。』
不安そうな表情が笑顔に変わり、彼女が用意してくれたさつまいも焼酎をグラスを注ぐ。
『はな!森伊蔵ではないか!よく手に入ったな!』
幻の焼酎
なかなか手に入る代物ではない
「うん…ちょっと頑張ってみたの。」
相当苦労したはずだ。
もちろん、この焼酎を呑めることも嬉しいが、何より彼女が大変な思いをして俺の為に準備してくれた
そのことが嬉しい
『ありがとう…はな…今日は遅くなってすまなかった』
一通り食事も終え、後片付けをするはなの背中に声をかけた。
「謝らないで?生徒さんの為でしょう?…一生懸命なところも大好きよ?」
ニッコリ笑いながら振り向く君に、どれだけ俺の胸が高鳴ったか…君は知らない
彼女の言葉と美味しい料理。幻の酒に甘い雰囲気
ゆっくり過ぎていった一日一日が、この為だったかと思ったら、彼女に会えなかった日々もそんなに悪くはなかったなと思えてならない
『はな、君は俺を煽る天才だ。お陰で気持ち良い酔いが回りそうだ。』
俺はグラスの焼酎をくいっと飲み干すと、横に腰かけたはなの肩を抱き寄せた。
はなは酒を呑まない。
すぐに眠くなってしまうから止めていると言っていた
「いい香りね…美味しかった?」
クンクンと俺の口元に鼻を寄せ、どうやら酒の香りを嗅いだようだ
『実に美味かった。しかし、君の方が…もっと美味しそうだな?』
そのまま重ねるだけのキスをした
「お酒の味……」
そう言って、クスッと笑う君は照れているのか頬が桃色だ
久しぶりのキスは甘くとろけそうで、一気に酔いが回ってきた