❁✿✾ 落 花 流 水 小 噺 ✾✿❁︎/イケメン戦国
第5章 掌中の珠 後編
不意に光秀が手元へ視線を落とした。真っ白な房飾りの上に連なる、三つのとんぼ玉。同じ色がひとつとしてない、この世の唯一無二─────光秀にとっての掌中の珠。眩く輝く愛しいそれらを、壊れ物を扱うようにそっと握り込んだ。
(贈り物など本当ならば何も望まないと言えば、お前達は欲がないと言うのだろうが)
既に自分は、この身に過ぎたる欲を有り余る程抱いている。愛しい妻が居て、愛らしい子らが居てくれる。それは光秀にとってこの上ない贅沢だ。口にすれば、もっと欲張っていいと言われてしまうからこそ音にはしないが。それでも尚、何かを求めて欲しいと彼女らが言うのであれば。
(傍にいさせてくれ)
この両腕が届く距離に居て、どうかずっと抱きしめさせて欲しい。来年も、その先もずっとこの掌の中で慈しみ、守らせて欲しい。そっと包み込んだ三つのとんぼ玉が、まるでその願いに応えるよう、掌でじんわりとした暖かさを伝えて来たような気がして、光秀が瞼を伏せて吐息混じりの笑みを零す。やがて双眸を露わにし、凪や光臣、そして光鴇に視線を合わせて柔らかく告げた。
「おいで」
その一言へ笑顔を浮かべ、振り返った光鴇が一番最初に父へぎゅっと抱きつく。恥ずかしがる光臣の元へ凪が行き、軽く背中を押しやって左側へ少年の身を収め、最後に空いた右側へ凪がそっと寄り添う。そうして包み込むよう両腕を広げた光秀は掌だけでなく、その身のすべてで大切なものを優しく包み込んだのだった。
了.....?