❁✿✾ 落 花 流 水 小 噺 ✾✿❁︎/イケメン戦国
第2章 武将と五百年後ノープランツアー 後
嬉しそうに声を上げ、凪が光秀の着物の袖を片手で思わず握る。店番の男が、撃ち落とした黒猫のぬいぐるみを手にして台の上へそれを置けば、光秀が鷹揚に応えた。そうして黒猫を片手で持つと、喜んでいる凪の唇へそれを近付け、軽くちょん、と鼻先を触れさせる。
「お前によく似た黒猫だ。置いて帰るには忍びない」
「私に似てるからって取ってくれたんですか?」
「さて、どうだろうな」
凪の唇へ触れさせた、掌に収まる程度のぬいぐるみを、彼女の手に乗せてやった。両手でそれを受け取り、大きな目をした黒猫から視線を光秀に向けると、男はさらりと問いを受け流す。だが、口振りからしてそういう事なのだろう。
「じゃあ、今度は私がやってみますね」
つい嬉しくなって面持ちを綻ばせ、黒猫を傍らへ置いた後、今度は凪が狙いを定めた。とはいえ、射的といっても数年前にやった程度で、光秀のように狙いの精度が高い訳ではない。目当てに片目をあてがい、正面付近にいる白い狐のぬいぐるみへ銃口を向けて慎重に狙いを定めると、思い切って引き金を引いた。
パンッ!!種子島よりも鼓膜を刺激する事の無い、控えた発砲音に光秀が軽く瞬きをする。凪が銃を構える姿に、ほんの一瞬だけひやりとしたものが胸の奥を過ぎった。ただの玩具であり、人の命を奪うものでは無いと頭で理解していても、手にしているものの形状が、光秀の意識を別のところへと連れ去る。凪に銃は似合わない。彼女に種子島を持たせた事など無いが、当然のようにその姿は不釣り合いであった。けれど、不釣り合いである事にまた、安堵もした。
(感傷を抱くまでも無い事だ)
「……掠りもしなかった…」
「これはこれは、小さな的とはいえまるで掠る素振りもないとは。いっそ一種の才能だな」
「うう……っ」
凪が撃ったコルク弾は、白い狐に微塵も掠る事なく横をすり抜けていく。隣で肩を落として悔しそうな声を零す彼女へ、すぐ様思考を切り替えた光秀が、銃を片手にしたままで反対の手を顎へあてがう。