【MARVEL】This is my selfishness
第12章 10th
そのクッションたちはそれぞれ膝の上にある。
見た目は同じものだから取り違えないように気をつけなきゃ。
シンと静まり返った夜の中、空を見上げると欠けた月が綺麗に輝いていた。満月でも三日月でもない、あの形の月はなんと言うんだろう。
『昔……昔、って言っていいのかな』
「ん?」
わたしにとっては昔になるけど、バッキーにとっては昔という感覚になるのだろうか、と思う。
『今の空と違ったりする?バッキーが…』
ウィンターソルジャーになる前、とか言っていいのかな?なんて言ったら気に触らない?と言葉を手繰り寄せていると、察してくれたのか彼は「あー」と言う。
「昔のほうが空を明るく感じたかもな」
今のほうが街が明るいから、空の明るさが分かりにくい気がする、と付け加える。
なるほど、今のほうがビルは高いし、その高いビルの光が多いから空の明るさを打ち消してるのか。
夜のお店が賑わっているところとかはそれこそ街がビカビカしてるしね。
「ここで見る空は分かりやすくていいかもな」
『住宅街って感じだもんね』
このアパート自体は高さもないけど、周りにビカビカしたお店もないし、街灯が多い訳でもないからあまり視界を邪魔しない。
寝転んだら視界いっぱいに夜空を広げることもできるし。
でも、出来ることならその昔の夜空も見てみたかった。バッキーが見ていた夜空を。今だけじゃなくて、昔も。
枕をセットして寝転ぶ。それを合図だったかのように、横でバッキーも同じように枕を置いて寝転んだ。
「昔の夜空も良かったが今も今で良いな」
『ほんと?』
「昔はこんなにいい枕はなかったからな」
その言葉に横を見るとニッと悪戯っ子のように口角を上げてお茶目に笑うバッキーがいた。
『おさがりだけどね、それ』と言うと「質がいいからいいんだ」と笑った。
お茶会のはずがこのプラネタリウムのような静かでゆったりした雰囲気がわたしに睡魔を送ってくる。
星を見つめたまま、だんだん瞬きがゆっくりになってきた頃、「明日は何するんだ?」と話しかけられた。