第5章 絶望
「リヴァイさんは、なぜここに……?」
「調査兵団からの視察だ。」
「そうですか………。」
ナナの肩が、わずかに震えていた。
無理もねぇ。
人を救いたいと願ってやまないこの女の目の前で、一体何人死んだのだろう。
「………俺は視察を終えれば、一旦調査兵団に戻る。」
「はい。お会いできて、嬉しかったです。」
「……お前はお前の武器で……戦え。」
「……はいっ!」
正直なところ、誰になんとなじられようともナナを連れて帰りたかった。これから、この避難所は荒れて行くだけだと容易に想像できる。こんな劣悪な環境の中、人間はいつまでも温和ではいられないからだ。
こんなところには置いて行きたくなかったが、こいつは自分の意志で動ける奴だ。
その意思を、信じる。
俺は首に巻いていたクラバットを外し、ナナの首に巻いた。
「………リヴァイさん、これ………。」
「………包帯にでも、当て布にでも、使えばいい。お前にやる。……今、あいにくお前の助けになりそうな物を何も持ち合わせていなくてな。」
「………いいえ………何よりも一番………私の心を支えてくれます。」
ナナは少しはにかんで、クラバットに頬を寄せた。
「………リヴァイさん!」
遠くから、兵員が俺を呼ぶ声が聞こえた。
「………じゃあな。………生きて、また会おう。」
「………はいっ………!」
王都に戻っていたからか。
上質なワンピースを泥と血に汚して、素足を傷だらけにしているナナは、それでもなお眩しく見えた。
そのあと戻って来た駐屯兵団の分隊長と話をつけ、俺は後ろ髪を引かれる感触を振り払って兵団に戻った。