第20章 強化訓練と育手
穏やかな声音で紡がれた恐怖の言葉。
剣士たちが恐る恐る後ろを振り返ると、しゃがみこみ般若の形相で笑みを浮かべる実弥が目と鼻の先にあった。
「どいつもこいつも女にすぐ甘えに行きやがる。お前らに最後に選択させてやらァ……死ぬか稽古に戻るかどっちだァ?あ"ぁ"?」
隊服の襟元を掴みあげられた剣士たちはガクガクと身体を震わせつつ、風音に助けを求めるように大量の涙を流して視線を送る。
実弥からは何故か凄まれているが、そんなことで風音の笑顔が壊れるなどありえない。
「お稽古に戻りましょ?実弥君も迎えに来てくれましたし、やっぱりお二人を死なせたくないって心から思っているんですよ!ね?実弥君は本当に優しいでしょ?」
ダメだった。
実弥を心から慕い尊敬している風音は、実弥が逃げ出した剣士たちに苛立ちを覚えて追い掛けて来たなど考えつくはずもない。
「……か、鴉から聞いたんだ。柊木さんは可愛らしいし優しいけど……稽古に関しては厳しくなるって。その様から………」
“狂薬学者という二つ名が付けられた”
と風音がしょんぼりするであろう言葉は、実弥の頭突きによって遮られた。
頭蓋が割れたのではと思うほどに響いた鈍い音に、風音は慌てて実弥の額と剣士の頭に手を当てる。
「大丈夫?!えっと、えっと……い、痛いの痛いの飛んで行けー……なんて」
出した言葉は消えないしなかったことにはならない。
なんとも子供っぽい方法をとってしまい顔を真っ赤に染めた風音に溜め息を零し、実弥は頭突きにより気を失った剣士と恐怖で気を失いかけている剣士を抱えて立ち上がった。
「お陰で痛みは飛んでったみてェだ。ほら、風音も行くぞ」
笑うこともなく呆れることもなく、自分の言動を受け入れてくれた実弥に笑みを向け、実弥に促されるままに横に並んだ。
「よかった!あのね、実弥君にはおはぎ、皆さんにはお煎餅買ってきたんだよ!皆さん少し疲れてるみたいだし、お茶とお菓子で休憩しない?」
無事に二つ名を風音の頭の中から吹き飛ばせた実弥は心の中で安堵し、気絶しかけている剣士を肩から下ろして風音の背に手を当てた。
「しゃあねぇなァ。まだ稽古の途中だが休憩にしてやるよ」