第20章 強化訓練と育手
まさか自分用に作った薬を小芭内が剣士たちに使うなどと考えていなかったのだろう。
実弥の胸の中で体をピクリと震わせ、恐る恐る顔を覗かせた。
「え……実弥君。伊黒さんがあれを剣士の皆さんに……使っちゃったの?だってあれ、目の下に塗ったらあまりの爽快感に涙が……」
「俺も試させてもらったが……お前、よくあんな状態で動き回ってたなァ。視界涙で滲んでまともに動けねぇだろ。俺は見てねぇけど、塗られたヤツらは本当に気付けのためだけに、伊黒に塗られてたんだろうよ」
出処など剣士たちは全員知っているはずだ。
何せ剣士たちの目の前で薬を取り出し、それを下まぶたに塗り込んでいたのだから。
「涙は止まらないけど……意識はしっかりするでしょ?力を沢山使ったら眠くなるだろうなって思って私用に作ったものだから。他の人にも使うなら爽快感を軽減しなきゃ」
胸元でウンウン悩み出した風音に笑みを向け、片方の手を枕元に伸ばした。
「すぐ気絶するような奴にはあのままでいいと思うぜ?けど、風音ならそうやって悩むんだろうなァって思ってたわ。だから……勝手に悪ィと思ったが、お前の帳面見て計算しといた。問題ねェか確認してくれ」
まさかの実弥のはからいに風音はキョトンとする。
今まで実弥の隣りで幾度となく帳面片手に調合を行ってきたが、実弥がそれに手を出すことも口を出すこともなかったからだ。
そして差し出された帳面を受け取り開かれている一頁に目を走らせ、風音の目がキラキラと輝いて満面の笑みとなった。
「すごい!問題ないも何も調合の割合完璧だよ!実弥君って剣技だじゃなくって計算も得意だったんだね!わぁ、すごく助かるしすごく嬉しい!ありがとう!これで今すぐお薬調合出来るよ!さっそく……」
「そうかィ。風音のん参考に考えただけだ、俺では一から調合なんて出来ねェよ。おら、お前はもう少し寝とけ。調合は明日すりゃあいい、今日は俺もここにいてやるからさっさと寝ろ」
もぞもぞと布団から這い出そうとした体は、実弥の腕でがっちり固定されているので動かなくなってしまった。
薬の調合は叶わない……
だが風音の大好きな実弥の暖かさに抗う気など一切起こらず、この日は実弥の言う通り調合を諦め、暖かさに身を委ねて休息することを選んだ。