第6章 【第四講 後半】マヨネーズは万能食だけど恋の病には効きません
土方は溜め息をついた。
「わーったよ。校則変えるなんて今後は言わねーよ」
「わかればよろしい」
○○はニコリと笑うと、土方のポケットからマヨネーズを取り出した。
「オイ、人のマヨ盗んじゃねェ」
「誰も盗ったりしないよ」
持ち主の見ている前で、しかもマヨネーズなんぞを強奪したりはしない。
「土方くん、マヨネーズそのまま飲めるんでしょ」
「俺だけじゃねーだろ。マヨネーズはどんな料理にも合うし、時には飲み物にもなる」
そんなことはないと思いながらも、あえて否定はしない。
人の嗜好を頭ごなしに否定することはよくないことだ。人は人。
○○はマヨネキャップを外し、土方の左手に握らせた。
「運動の後はなるべく早く栄養を摂った方がいいよ。特にケガ人は」
こうして手元に補給できる栄養があるならば、活用しない手はない。
「マヨネーズは貴重な栄養だよ。とても体にいいものデス!」
笑顔で言い残すと、○○はグラウンドへと駆けて行った。
グラウンドでは銀魂、集英双方の選手達が片付けを行っている。
○○もその中に混ざった。
「いっ、いてーな……」
突然苦痛の声を上げ、土方は前屈みに体を折った。
「どうしたトシ、まだ肩が痛むのか?」
近藤は心配そうに土方を覗き込む。
「いや、肩じゃねーな」
発生源は肩よりも低い場所。
そんな所を痛めた覚えはないのだが。
「マヨ食えば治まんだろ」
マヨネーズは貴重な栄養だから。と、先程の○○の言葉を頭の中で反芻すれば、ナゼか体が熱を帯びる。
「お、俺もグラウンド整備に行ってくる……トシはここで休んでろよ」
近藤はいそいそとベンチから立ち去った。
土方のマヨネーズに対する異常な愛はわかっているが、あまりにも真剣な表情で啜っているため、今の土方には狂気すら感じる。
「なかなか治んねーな」
マヨネーズは万能の食べモノのはずなのに。
とても体にいいものデス! と言った○○の笑顔を思い出すとさらに痛みが広がった。
「いって……」
土方は胸を押さえる。
マヨネーズでは治らない。どんな薬でも治らない。
不意に訪れる胸の痛み。世界はそれを恋と呼ぶんだぜ。
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