第6章 【第四講 後半】マヨネーズは万能食だけど恋の病には効きません
「ゲームセット!」
審判が宣言する。
最後の打者、新八は初球を打ち、あっさりと捕られてダブルプレー。
スリーアウトで試合終了。
○○は息をついた。
やれることはやった。集英高校を相手に引き分け。大健闘だ。
右を向けば、桂がスライディングの格好で静止していた。
場所は二塁と三塁のど真ん中。
お前は一体何メートルの距離をスライディングしようとしてたんだと突っ込みたくなるが、桂の行いに突っ込んでいてはきりがない。
○○は見なかったことにしてベンチへと戻った。
「ナイスバッティングだったぞ、□□」
近藤が労いの声をかける。
「近藤さんも。お疲れ様でした」
近藤は土方の横に腰掛けている。肩の様子を見ていたようだ。
○○もベンチに腰を下ろした。土方、近藤、○○の順でベンチに並ぶ。
「規則もさ、時と場合によっては破ったっていーもんでしょ」
近藤の体越しに○○は土方に声をかける。
土方は首を傾げた。
「あ? いーわけねーだろ」
「いーわけねーだろ、じゃないよ。じゃあ、何よ、それは」
○○は土方のポケットを指差した。そこにはマヨネーズが覗いている。
魔球マヨネボールのために使用されたもの。ボールにマヨネーズを塗ることはルール違反に他ならない。
「これは……仕方ねーだろ」
野球経験のない自分等が甲子園出場経験のある奴等に勝つためには、真っ当な手では太刀打ち出来ない。
ありとあらゆる手段で勝ちを掴む方法を模索し、考え出された手。
「仕方ない? 勝負の場で規則を破るのは、相手のいない校則を破るよりもっと卑怯じゃない」
土方は口を閉ざす。
そもそも野球には思い入れがない。ルールも大して知らない。
マヨネボールが如何に卑劣なものか、実感が湧かない。
「トシの負けだな」
ニヤリと近藤は笑う。