第5章 【第四講 前半】野球の話は後半から。
「具体的にどんな違反があったんだ?」
近藤の問いに土方は答える。
違反者の内訳は男子十三名、女子四名。大半が頭髪の長さだった。
「前髪が基準より一ミリ程長い奴が多くいた」
基準は土方の前髪より長いか否か。
「厳しすぎでしょ!」
○○の前髪に対する基準は目を覆う程に伸びていないか否かだ。
まして一ミリ単位でなど見ていない。
「規則は規則だ。これくらい、なんて見逃してたら示しがつかねェ」
土方は腕を組む。
「他にも怪しい奴は何人かいたが、何せ相手が女子だからな」
幾人か、スカート丈が規則より短そうな生徒がいた。
あからさまに短いならば指導が出来るが、規則ギリギリ、アウトかセーフか微妙な生徒には声がかけられずにヤキモキした。
男子である自分が、女子のスカート丈を測ることは出来ない。
新たに女子が風紀委員に入り、今まで見過ごさざるを得なかったその点をチェック出来る機会は得たが、○○に頼むのは癪だった。
「前にも言ったけど、何でもかんでも規則で雁字搦めにするのよくないと思うけど」
「規則で縛らねーと守れねー奴ばかりだ」
切腹だ切腹と、土方は物騒なことを呟く。
「高校生なんだよ。義務教育じゃないんだよ。自主性ってモンも大事でしょ」
「自主性と自由をはき違えて、好き勝手やる奴が多いんだよ」
「髪が少し長いくらいで、他人に何か迷惑がかかった?」
「校則くらい守れねー奴が社会に出たら、後々問題を起こす可能性があんだろ」
「起こすかわからないじゃない、そんなの」
「起こしてからじゃ取り返しがつかねーだろ」
○○と土方は睨み合う。
またかと、近藤は溜め息をつく。
「頼むから、委員内での対立はやめてくれ」
○○と土方の確執。
それは数日前の放課後、風紀委員会での集会に端を発する。