第5章 【第四講 前半】野球の話は後半から。
「では、俺はそろそろ教室へ向かうとする」
「うん」
○○は再び登校する生徒達に目を向ける。
そろそろ登校時刻限度が迫っているため、足早にやって来る生徒が多い。
桂は再度コホンと咳払いをすると、その背中に声をかけた。
「また教室でな。……○○ちゃん」
聞こえた言葉に○○の中で何かが張り詰める。
○○はゆらりと振り返る。
「あ゛あ゛?」
瞳孔開き気味。
長年の敵を見つけたかのような表情を向けられ、桂はたじろぐ。
「女子を“ちゃん”付けなんて小学校低学年までだろオイ」
「エリザベスがよくて、俺はよくないとでもいうのか?」
「よくない」
犬猫に顔を舐められても問題とならぬが、桂に舐められれば即通報だ。
それと同じようなもの。
「“ちゃん”が許されぬとあらば……」
桂は腕を組み考える。
「○○様」
「クラスメイトに様呼ばわりされる謂れはないわ」
「○○お嬢様」
「アンタ執事かなんか?」
「○○殿」
「ど……」
ずいぶんと古めかしいが、どういうわけかしっくりする。
近藤も妙のことを“お妙さん”と時代がかった呼び方をしているが、違和感はまるでない。
「それならまァ……いいかな」
しかり、と桂は頷く。
「『本誌』と同じ呼び方だな」
「『本誌』って何?」
「俺にもよくわからん」
○○と桂は揃って首を傾ける。